JAXA長期ビジョン-JAXA 2025-
かねてより検討されていた,今後のJAXAが目指すべきビジョンの詳細が4/6,宇宙開発委員会に報告され,公開された。
まだまだひよっことはいえ,宇宙機器産業に携わる者として,稚拙ながらも所感を記しておきたいと思う。
本報告書に示されたビジョンの幹は次の五つ。
・地球観測・測位等の宇宙利用システム
・惑星・ブラックホール等の宇宙科学探査
・宇宙へ出るための手段である宇宙輸送システム
・企業が独力で拡大できるレベルを目指す宇宙産業の成長
・今後の基幹産業としたい航空輸送システム
全体として,非常に広範囲にわたる内容となっているが,しかし,これらはすべてJAXAとして遂行していくべきプロジェクトであることも確か。
まず,人工衛星を活用した宇宙利用システムの構築。これについては,現状を発展させていくことでそれなりの成果は得られると思われる。今後の課題は,そうやって取得・蓄積された貴重なデータを如何に有効活用できるシステムを作り上げていくか,という点になるか。最近各地で続く巨大地震や異常気象に対する情報源として,日本だけでなく,アジア全域に対して有効なツールとなるはず。今の日本が周辺国に対し,責任ある事業として推進し,維持すべきものと考えられる。
宇宙科学探査はこれまでも小さい規模でも大きな成果を上げてきている。また,先進的な試みも多くされてきた。ただ,これは旧ISASだからこそできた面が大きいように思う。今後は,今までの挑戦的な進め方に,旧NASDAの巨大プロジェクトで培ったマネジメント技術をうまく融合できるかどうかが問題かと。
次の宇宙輸送システム。結局これが一番大きいのか。まずは,今後も基幹ロケットしてH-IIAを推進する。とにかくこれを継続して打ち上げ,実績を積んですべての土台にする。HTVの打ち上げも,その貴重な機会となる。現在,ISS計画を通して進めている有人計画については,ぶちあげすぎの感もある。が,宇宙利用として次をみれば避けては通れない。言わなくなれば進められない。常にそこを見据えて,一歩一歩進めていくしかないのではないかと思う。この国では,60年代のようなことはできないから。
我が身のことになってしまう宇宙産業の成長。国産でロケット開発が始まってもう,かなりの時間が経った。H-IIの開発開始からも二十年近く。日本の宇宙開発初期に携わった人たちが次々と一線を退き,あとには新規の開発を行ったことのない若手が残りつつある。今,次を始めなければ,技術の空白期間が生じる懸念が強い。
前項の宇宙輸送システムの構築を発展させていくためには,ある程度の事業規模がコンスタントに確保できる状態でないと,次のステップに進む体力を持てない。有人計画を進めるのも,それを支える土台を構築できないと,すぐに倒れてしまう。そして,有人を進めるには,倒れること,転ぶことはきっと,日本という国では「許されない」でしょう。
航空技術の確立。これに関しては,旧NALが進めてきたが,今ひとつ。民間が欧米のメーカーと共同開発で技術を蓄積していくのか,国が主導して一気に進めるのか,明確にしてこなかったのが大きな原因だろう。ここではっきりとさせる必要もあるだろう。
これらの技術面での幹と同じレベルで,教育と広報にも対していかなくてはいけない。最近はJAXAもがんばっているが,どうしてもマスコミには埋もれてしまう。今回のこのビジョンについても,もっと声高に発表し,議論を起こすようにしないと推進は難しい。そしてなによりも,政策の不在が大きい。
仮にも「科学技術創造立国」を掲げるのならば,少しくらいは国のトップからその方針を聞かせていただきたい。ロケットの打ち上げに成功して,所管官庁のトップが「成功おめでとうございます」と他人事のように言うようでは,到底技術で国を立てることなどできないのではないか。もうすこし,理系にも興味を持っていただきたい。
つらつらと書いてみたが,なんにしても当事者の一人として,今後の航空宇宙分野の発展に貢献できるよう,発憤していきたいと思う。
現場で一緒になるJAXAの方ともお酒を飲みながら,この先のことについていろいろと意見を交わす機会も多い。現状に大きな危機感を持ち,先を見たいと思っているのは,だれよりも当事者である我々なわけで。
アドバルーンであろうと,そもそもこういうモノが出てくるようになったことを評価し,これを議論のたたき台にしていきたい。