笹本祐一「宇宙へのパスポート2」発売記念トークセッション
つーわけで、2ちゃんねる経由というのがアレですが、そんな感じのイベントが池袋ジュンク堂であったので、喜び勇んで行ってきたわけです。だって、先月末のロフトのイベント、出張で行けなかったし。写真中央右側が笹本氏で、左側が松浦氏。さらに左手が朝日ソノラマ・I編集長。
19時開始予定が、予約者が全部来なかったがためのキャンセル待ち人員の処理に手間取ったせいで、少し遅れて開始。先頭中央のおじさんが、「時間通りに始めなさいよ、みんな予定があるんだから」となぜか一人でキレておられましたが、何だったんでしょう……。トークは笹本氏が中心で、たまに松浦氏のつっこみが入るという感じで進行。朝日ソノラマの編集長は最初だけ少ししゃべって、たまに苦笑いしつつコメント入れたくらいでした。
そもそもこの「宇宙へのパスポート」はアメリカ西海岸への笹本氏、あさりよしとお氏、豊島ゆーさく氏、ダニエル氏の航空宇宙産業観光珍道中日記が始まりだったとか。これに関しては、以前ネットで公開されていた時に読んでいて、かなり爆笑した記憶があります。ソノラマの編集長も、おもしろいけどこれは出すところがない、と処置に困っていたようで。それならということで、笹本氏の趣味で始めたロケット打ち上げ見学記と一緒にまとめよう、ということになったそうで。
最初に話題に上ったのは、やっぱり中国の「神舟」。「きれいにあがったけど、やっぱりアレは無事に帰ってきてナンボだし…」なんて話をしていたらしい。松浦氏いわく「遠足は家に着くまでが遠足です」ってな感じか。「神舟」の打ち上げに使った長征2Fは燃料にヒドラジン、酸化剤に四酸化二窒素っつー毒物を使用していて、あがっていくときの噴射炎が液酸/液水とは違ってかなり褐色だったのは、ヒドラジンよりも四酸化二窒素の色らしい。猛毒を燃料にしたロケットで人をあげるなんざ、さすが中国。ほかにヒドラジン/四酸化二窒素のロケットにロシアのプロトンがあるけれども、これでは人はあげてません。打ち上げ時のGが8を超えるんで、つぶれっちまうってことらしい。
宇宙関係でよく出てくる衛星屋さんの野田指令とあさり氏が組んで、「なつのロケット2」をたくらんでいるらしい。これは乞うご期待。しかし、宇宙版の「大怪獣図鑑」をあさり氏と豊島氏が書くという企画がソノラマに出ているらしいんだけど、笹本氏いわく「あいつらしごとしねーんだもん」ということで、なかなか企画が通らないらしい。これは気長に待つしかないのか……。
打ち上げが延期になったIGSの6号機。打ち上げ日程や軌道なんて、どこからともなく漏れてくるモノで、どのあたりが打ち上げかなんて言うのは、種の宿に電話して、「メーカーの人の予約、いつはいってる?」で判明してしまうし、海上保安庁のwebで危険海域案内を見ればだいたい方向もわかる。ちょっと予測がつけば、夜望遠鏡でのぞいていればあっさり見つかるし、前の時はNORADから軌道情報が出たというなんともお粗末な機密体制だったようで、所詮は内閣府……。そもそもIGSを計画したとき、偉い人たちは、「偵察できる低高度で北朝鮮上空に静止させるつもりだった」という噂がまことしやかに流れているらしい。あながちない話でもなさそうなのが、情けない限りな訳で。
アリアンの取材の時、チャーター便が非常に豪華だったことや、食事やパーティーなどクライアントやマスコミに対するサービスを体感し、「日本はかなわんな」と思ったらしい。松浦氏曰く「ロケットはつくし」 いや、形は確かにつくしだけど、そうでなく、あのつくしが生えてくるには方々に広がった地下茎が必要なわけで。要するに、打ち上げ花火であるところのロケットだけがあっても使い物になるわけでなく、輸送用の港、道路、人員輸送用の空港、航空機、複数台の衛星をASSYできる設備等々、周りのインフラを含めたシステム全体で整備しなくてはならないのに、現状の日本の宇宙開発には、その辺の視点がごっそり抜けているわけで。民間への移管がなされて、商業ベースに乗せるに当たって、プライムであるところのダイヤさんはそこまでやるのでしょうか。……やるわけないやね。ま、箱だけ作って中身なし、っつーのは公共事業のお約束ではありますが。
パリエアショー帰りに見られたロシアのロコット。母体は大陸間弾道弾「SS19」 さすが多弾頭ミサイル。今回は9機の衛星を違う軌道に入れたわけで。そして、その組み立て棟をのぞいてびっくり。クリーンルームがないそうで。「いままで40年近くの経験から、ロケットやら衛星の組み立てにクリーンルームなんぞ必要ねーよ」という次第。ふつうのおっちゃんが、ふつうの作業服で、「よっこらしょ」ってロケットの段間部にドライバー片手に潜り込むんですって。さすが質実剛健なロシア製。そして、今度一個だけ衛星用にクリーンルームを作ったんですって。クライアントの要求で。そのクライアントって言うのがダイヤな衛星屋さんだったんですって。基本的にベースが米国基準である日本の規格は、総じて過剰要求のようで。清浄度なんかの管理は案外もっと緩くても機械はちゃんと動くようで。高い値段の3~4割はこの清浄度要求のせいなんだろうなぁ。
1998年、ISASが上げた「あけぼの」は、バンアレン帯を何度も通って、かなりの放射線にさらされるので、機器寿命は3年と見積もられていたけれども、2003年現在も絶賛稼働中らしく。「どうもNASAが最初に政府からお金を取るために、規格を厳しく見積もったのがずっと後を引いているのではないか」という噂も流れているそうです。
すべて前例を基準にして物事を進めるお役所的旧NASDAと、すべてを自らの経験によって物事を進める旧ISAS。言うなればアメリカ式かソ連式か、かな。最初の南極越冬隊で指揮を執った西堀栄三郎氏曰く「石橋をたたいたらわたれない」 新しいことはやってみなくちゃわからない。トラブルが起きたらその場で対処すればいい。そしてその対処ができる人間で構成すればいい。今の大型ロケット開発にはあり得ない対処ですが、そうするのが当然のような気がします。しかし、ここまで大型ロケットが上げられるようになって、量産フェーズに移っても、未だに手探りでやっている現状では、そんな勇気はないのかもしれません。余談として、松浦氏曰く「ちなみに西堀氏は衛星も作っているT芝の品質管理を担当していた」 笹本氏:「あの宇宙業界では評判の悪い…w」
前例にしがみつき、試行錯誤ができない原因のひとつに、「人身事故、特に死亡事故」に対するひどい拒否反応があります。なぜか宇宙開発に関わるこの反応は異常なまでといえるかもしれません。日本が「有人」という領域に踏み込めないのは、予算がないと言うことに加え、これが大きく影響しています。しかし、過去を振り返ってみれば、本四大橋や青函トンネルの建設でも死亡事故は起きています。笹本氏:「1,2人死んだからといってやめる理由にはならんと思うが」 松浦氏:「暴言だけどね」
時間を大幅にオーバーしても、最後にM-Vのビデオを見つつもちっとお話。笹本氏:「内之浦の教授のセンセたち。打ち上げ前の記者会見の時の顔、どっかで見たことあると思ったら、おもちゃを買ってもらう直前の子供の顔だった」 心底楽しんでやらないと、少ない予算で手作りの裏山の宇宙開発をやっていく根性は生まれないのかもしれません。
とまぁ、一時間半くらいでしょうか。かなりの頻度で笑いが出る、非常に楽しいイベントでした。それにしても松浦氏は色々と物知りです。ワタシも少し視野を広く、色々勉強しないといけないなぁ。
ちなみに、古い人に切望されている「バーンストーマー」の続刊は悲しいくらいに売れなかったために、ほぼ絶望的らしいです。そして、「宇宙へのパスポート」の前作はやっとこ、その売れなかった「バーンストーマー」を超えたくらいだそうです。なかなか大人の事情は複雑なようですね。次は最終巻らしい「ARIEL20」だそうで。みんなに早く早くとせっつかれ、「星のパイロット」も続刊期待の声が多数。だけど、ネタが思いつかないんだって。