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2006年08月11日

【河井克行】国家としての宇宙戦略論

国家としての宇宙戦略論
国家としての宇宙戦略論
河井 克行 他
誠文堂新光社
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 たまたま書店の店頭で笹本氏の「宇宙へのパスポート3」の隣にあったので手に取った単行本。まとめた河井氏というのはれっきとした (?)自民党の衆議院議員さんである。 この人が中心で動いている宇宙議連での勉強会においてその筋の専門家がしてくれたお話をまとめたものである。

 初っぱなから五代富文氏である。LE-5が非常に高い評価を得ていたのに,広義での「平和利用」の壁にぶち当たり, 世界の宇宙業界においてトップランナーにたつ貴重な機会(その後,こんな機会は今に至るもない)をフイにしてしまったこと。 少ない予算がために細い細い蜘蛛の糸に乗っかってプロジェクトが進むこと等々,いきなりうなずくしかないことがずらずらと。

 続いてSJAC(日本航空宇宙工業会)の理事・田中俊二氏が宇宙産業の現状について。いかに日本の宇宙産業が世界規模で小さいか, 多くの産業機会があり,インフラもあるにもかかわらず, なぜか周辺産業が用いるインフラは他国のものである現状などが悲しいくらいに述べられている。

 三番目は防衛畑出身の志方俊之氏。北のミサイルが日本列島の上空を越え, 三陸沖に降ってきたとたんに突然スムーズに物事が決まってしまった情報収集衛星(IGS)に対する考察。「軍事大国」の道をとらず, 他国からの侵略から身を守り,自立を維持するのであれば,せめて「情報大国」であるべし,と。 いくらアメリカの傘の下に入れてもらっているとはいえ,外交はギブアンドテイク。 ましてや戦略情報などこちらのネタがないのに土下座したってもらえない。こちらのカードくらいは, 先進国として自前で用意する必要があるでしょう,と。そしてこの志方氏,最初にもっともうなずけることを言っている。 「日本がこれからどこへ行こうとしているのか,いくべきなのか,それが誰にも見えていない」 「日本人は目標が与えられるとしっかりと前進するが,自らが目標を作ることが一番苦手」 全くその通り。

 稗田浩雄氏は最近着実に宇宙大国への道を一歩一歩進めている中国と,その他進歩著しい周辺各国の動向について。 中央に幹を据えて進むことがいかに巨大プロジェクトには重要であるかが実感しきり。

 超小型衛星でチャレンジングなことをたくさんしてくれる東大の中須賀教授が世界の衛星サイズの動向と, 超小型衛星に拓ける未来やその用途などなどを。

 最後に,青木節子女史が宇宙利用に関する国際法を絡めて,日本の「平和利用」原則について説明してくれている。

 全編通していちいち頷いてしまう内容である。とにかく一番に感じるのは,「日本という国がどこに行くのか,どこを目指すのか」 「そのための道具として宇宙をどう使っていくつもりなのか」 大局的な視点に立った確固たる国策方針が皆無であることがすべての問題点の根底にあるのだということ。これについては宇宙に限らず, あらゆることについてだと思うけれども。スローガンだけは立派だけれども……。

 宇宙議連というものが発足したことは以前に新聞報道かなにかで見知ってはいたが, おそらくたいしたことはできないだろうとろくに期待もしていなかった。それがこんな勉強会を開いていたとは……。 是非是非河井氏はじめ議連の方々には,まずは日本の「宇宙利用基本法」の成立に向かって頑張っていただきたい。 宇宙村の住民と言うだけでなく,なにより星空を見上げてそのあこがれを抱いて成長してきた人間の一人として応援していきたい。

 

2006年06月20日

理系白書 この国を静かに支える人たち

理系白書 この国を静かに支える人たち
理系白書 この国を静かに支える人たち
毎日新聞社科学環境部
講談社
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 「はたして,理系は報われているか?」

 報われているという人もいれば,全く報われてなんてないね!という人もいそうですが…。

 最近定期的にチェックしている「理系白書ブログ」。 毎日新聞で連載している「理系白書」で担当をされている元村さんが多岐にわたる(おいしそうな食べ物ネタが多いけれども) 話題を提供していて,それにのっかって様々な人が活発に議論を繰り広げることもあるブログ。ここで,ずいぶん前に出版されていた「理系白書」 の連載をまとめたものが文庫落ちしたというので,仮にも理系・技術者のはしくれなので手に取った。

 単行本の出版は2003年ということで,さらに新聞連載をまとめたことから話題が少し古いのは致し方ないとしても, ちょうど島津製作所の田中さんや小柴教授のノーベル賞が話題になった頃だったからこんなネタで連載がもてたのかなとも思ったり。

 しかし,最初の話題がいきなり理系と文系の給与所得差とは…。最近職場でも話題になるけれども, エンジニアっつーのは偉くなれないから必然的にお給料も安かったりするわけで。エンジニアでもマネージメント能力に適正があれば, それなりに偉くなれるけれども,そうでない技術一本槍の人であってもそれなりの役職と手当ができるルートが必要だよね, なんて話をしていたり。

 国を動かすところにいるのが文系人間だけの割に「科学立国」を標榜できていたり,身近に就職先がなくてポスドクで流浪している (もしくはしていた)ドクターがいたり, そーいえば大学の隣の研究室の女性の助手さんがやっぱりいろいろ大変だって日本酒をざるのように飲みながら愚痴ってったっけなーとか, 「理系=オタク」の図式はしっくりきやすいのかとか,お金に困らなかった大学時代の研究室の先生はやっぱりすごかったのかなーとか, いろいろと頷けるところ,考えさせられるところ多々あり,おもしろい。

 今の「理系」を取り巻く環境は,これまでの蓄積に成り立っていて,問題点が多いことがわかっていても, 一朝一夕に改革できることでもなく,機会あるごとに声を上げて少しずつ意識を変えていかなくてはいけないんだと実感。 内にこもっているだけでなく,広く外に目線を向けなくてはいけませんね。

 まずは自分の仕事を,どんな人でも理解できるように説明できるようにならないといけないかなぁ。

2006年05月18日

デルフィニア熱 再来

 先日,デルフィニア戦記の外伝であるところの「大鷲の誓い」を読んでしまい,にわかにデルフィニア熱が再来してしまった…。

 新書は全部実家に置いてきてるので手元にないけど,ありがたいことに文庫版をなぜかそろえてしまっていたので,全十八冊,先週から土日にかけて読破。

 最近当たりくじをなかなか引かないので,没頭できる本を読める幸せを久しぶりに実感。やっぱりこれは名作ですなぁ。しみじみ楽しみました。

 ついでに自重でゆがんできていた据え付け本棚が不憫になってきたので,一部をブコフにドナドナ。新しい文庫が多かったので,200冊でそれなりになりました。これで半分くらいになったかなぁ…。

2005年05月29日

【松浦晋也】スペースシャトルの落日

スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~
スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~
松浦 晋也
エクスナレッジ
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 松浦氏の新刊。「軌道上に人と物を繰り返し繰り返しやすく運ぶことができる」 というアメリカのスペースシャトルは大きな失敗作だったという,衝撃的な内容。

 シャトル運用上の二つの大きな事故を見直し,そもそものプロジェクト進行をトレースすることで,技術的な問題点, コンセプトのまずい点などをあげていくと,結局は技術的に失敗だったというよりも,政治に失敗させられたということになってしまうご様子。

 そして,その「失敗作」にしがみついたがために,停滞してしまった世界の宇宙開発。 日本はその波をもろにひっかぶってしまったわけで。

 次を考える時には,同じ轍を踏まないことが大事。不適合はちゃんと是正して反映しないといけない。 それをしっかりと意識しながら仕事をしていきたいと思う。

2005年05月21日

【的川泰宣】轟きは夢を乗せて 喜・怒・哀・楽の宇宙日記

轟きは夢をのせて―喜・怒・哀・楽の宇宙日記
「轟きは夢を乗せて 喜・怒・哀・楽の宇宙日記」
著者:的川泰宣
共立出版
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 旧ISASの教授で,JAXAではすっかり顔出し担当になってしまった的川先生が,日本惑星協会のメールマガジンで「YMコラム」 として連載していたものを,実に1999~2004年の五年分まとめたもの。激動の宇宙開発の裏側と, 現場の人が抱く宇宙への思いやらなにやらをさらけ出したものになっています。

 単純に裏話暴露本というわけではなく,技術的な話,科学的な話,教育の話とかなりつっこんだ部分もおおく, ちょっと読むのが大変かもしれませんが,わかりやすく書かれているので,これをがんばって読むと, 今後宇宙関係のニュースがわかりやすくなると思います。

 H-II8号機からはじまり,M-V五号機,のぞみ,H-IIA6号機と失敗が報じられるたび, 現場の人たちがどんなにがんばってきたのか,とくに長い戦いになったのぞみについては,その激闘が詳細に報告されています。

 そして何より的川先生が熱心に綴っているのが子供たちに対する教育について。本書にも繰り返し構想が語られていますが, 先日それが結実し,「宇宙教育センター」という組織が発足しました。 これからがスタートで,正念場だとは思いますが,ぜひぜひ発憤していただきたいと思います。

 すこしでも宇宙に興味があったら,是非読んでみてください。宇宙開発というものをどんな風にやっているのか, その一端を知るきっかけになると思います。また,是非,リアルタイムで知っていただきたいのでメールマガジンの購読もおすすめです。

2005年02月11日

【田中芳樹】夜行曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿

薬師寺涼子の怪奇事件簿 夜光曲
「夜行曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿」
著者:田中芳樹
イラスト:垣野内成美
祥伝社NON NOVEL
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 いったい何社からでるのやら……、なお涼様の新刊です。今回の舞台は魔都・東京。

 今回は、なんだか犯人が唐突にすぎて、盛り上がりに欠けた感じが。お涼vsお由紀もいつもの勢いがなくて、目につくのはいつもの田中流の世相への皮肉ばかり。これに関しては、いつも多かれ少なかれあるので慣れているし、それをギャグにしてるから笑えるのだけど、今回はちょっときつめだったかな。そのせいで今ひとつ乗り切れなかった感が。

 一番の見せ場は朴念仁・準一郎君が珍しく断言しきったあとのお涼様の反応のところかと。なんだけど、ここももう少し色気がほしかったかなぁ。

 なんか薄かった新刊でした。

2005年01月27日

【菅 浩江】五人姉妹



五人姉妹表紙
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「五人姉妹」
著者:菅 浩江
早川文庫
 

 SFな日常にちょっと混じった人間ドラマ,そんな感じの短編集。菅さんのは「博物館惑星」が初めてで,その後日談があるというので手に取った新刊。

 俗に言うSFのごてごてと科学考証しているような話はなく,あくまでも一要素でしかないのが読みやすくていい。クローンや試験管ベイビー,介護されるロボットに成長する人工臓器,ロボットペット等々,そんな科学から透かして見える「人間」という生き物。少しは自分を省みて考えさせられるような,9編それぞれの人間ドラマです。
 最後の加納朋子女史の解説もおもしろい見方がされていて楽しめました。

2005年01月09日

【秋山瑞人】ミナミノミナミノ



ミナミノミナミノ表紙
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「ミナミノミナミノ」
著者:秋山瑞人
イラスト:駒都えーじ →Passing Rim
電撃文庫
 

 イリヤ以来の久々の新刊。…ですが,あえて言う。

 EGFは!?

 ともあれ,後書きにもあるように,イリヤのアニメ化を受けての新刊。またしても夏のボーイミーツガールな話。
 まだ始まりなので,スピードのった展開にはなってません。今までのように怒濤の勢いな文章でもなく,少し抑えめの印象ですが,所々に「らしい」部分がちゃんとあります。
 正時くんが「ここだ!」と思った下りなんかは一番のヒットかな。

 この先一気に最高速に持って行って,どかんと鬱展開に持ち込まれるか否かはちっともわかりませんから,どきどきしながら次を待つしかないわけで。なんにしても,

 EGFは!?

2004年08月24日

【加納朋子】ささらさや



ささらさや表紙
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「ささらさや」
著者:加納朋子
幻冬舎文庫
 

 じんわりと心の温まる話を書いてくれる加納さんは,最近結構お気に入りです。「ななつのこ」と「魔法飛行」ですっかりはまってしまい,これも購入。

 新婚ほやほや,赤ん坊も生まれて幸せな,なんてことない日常を過ごしていたはずなのに,突然舞い降りた夫の交通事故死というイベント(描写のタッチに悲壮感のみがあるわけでなく,何となく軽いので)。それを契機に,弱気でぽやーっとした「サヤ」に訪れる数々の出来事とささやかなミステリー。その解決に動くのは,死んだはずの夫の幽霊?

 巻末の解説にあるように,まさしく某洋画のような話ですが,三婆やヤンママのような個性的な面々のおかげで,暗くなるだけの話でなく,何となくコメディが混じったような,だけど温かい,「ななつのこ」なんかと同じく,なんかほっとするお話です。

 最近,殺伐とした話しか見聞きしないようになってしまったので,こういうほんわかする話は精神的安定剤としてありがたい限りです。

2004年04月25日

【田中芳樹】黒蜘蛛島-薬師寺涼子の怪奇事件簿



黒蜘蛛島表紙
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「黒蜘蛛島-薬師寺涼子の怪奇事件簿」
著者:田中芳樹
イラスト:垣野内成美 →Official Web
カッパノベルス
 

 週末まで十日ばかしの出張に行っておりました。ウィークデイはほとんど深夜までのお仕事で、よれよれになって寝るだけでしたが、日曜はお休みだったので、そのときのリフレッシュ剤として物色して、手に取ったのがこれ。ショージキ、垣野内成美女史のイラストにふらふらと吸い寄せられたのです。

 成績優秀才色兼備さらにお金にも困らない天下無敵の警視庁キャリア組警視殿・泣く子も黙る「ドラまたリ……」 いやいや、「ドラよけお涼」とその忠実な椅子兼犬兼忠臣兼部下その他諸々の泉田警部補が巻き込まれるのか、引き寄せるのか、はたまた原因なのか、たびたび遭遇する人外な事件の数々。それをことごとく蹴散らしていくお涼に拍手喝采を浴びせる痛快伝奇アクション?

 ま、天下の田中芳樹の現代舞台などたばた劇ですから、その端々にいつもの毒が混入されるのはいつものこと。しかし、今回はいつもとちょっと違う。何てったって主役は天下無敵の女王様。笑い方だって腰に手を当て、胸張って、手の甲口に当てて「おーほっほっほ!」だし。そんなそこのけな人がたまに見せる一面に弱いんですなぁ。単純ですが。もともと美神令子みたいなのに弱いんです。そりゃツボです。さらにネタが世界各地の神話伝説に語られる怪物たちとくれば、メガテンスキーの血が騒ぐ。

 というわけで、一気に既刊を読破したわけです。そして、何てったって田中芳樹。続刊は期待せずに待つしかありません。普段はあまり言及しない恋愛模様を、田中芳樹はいかにまとめるのか? というか泉田君の不幸はいつまで続くのか? ま、のんびり待つとしましょう。

 久々に単純痛快娯楽ものを心の底から楽しんだ感じですな。

2004年02月14日

【松浦晋也】国産ロケットはなぜ墜ちるのか



国産ロケットはなぜ墜ちるのか表紙


「国産ロケットはなぜ墜ちるのか H-IIA開発と失敗の真相」
著者:松浦晋也
日経BP社

 笹本祐一氏とともに、たびたび各国のロケット打ち上げの取材にいき、たまに日経Biztechなどで現在の日本の宇宙開発に関しての記事を載せるノンフィクション・ライターであるところの松浦晋也氏の新刊。中身としては、日経Biztech等の記事を核にして少しふくらませた、日本の宇宙開発、ひいては科学技術政策全体の持つ問題点を指摘したものになっている。

 著者が「ふじ計画」に携わったり、多少なりとも仕事とは別の側面を持ってロケット打ち上げの取材に赴いていることからも、主張に宇宙開発推進の偏りがあるのは致し方ないところですが、ほかのマスメディアにおいて、このように詳しく、実情を含めた報道がなされていないことから、貴重な情報源であることは確かです。

 昨年11月のH-IIA六号機、「みどり2号」、「のぞみ」、「MTSAT」などの失敗を中心に、日本の宇宙開発における問題点がどこかという話。大きくいってしまえば三つ。
 
 「政治(政策)」と「組織」と「対アメリカ」

 とはいえ、結局のところ「政治」がすべてなのかもしれません。理工系的教養が皆無の政治家・官僚によって企画・立案・遂行される自我なき宇宙開発政策。「対アメリカ外交」のあおりを食って生け贄にされる「国際協力」という名の宇宙開発。霞ヶ関の思惑のみを反映した旧NASDAと新生JAXAの組織構造。
 トラブルのすべてを予算不足のせいにすることはできませんが、限られた予算でも、少しの理工系的教養と芯をもった政策と常識的にフレキシブルな遂行組織とがあれば、今現在の状況は全く変わっていたように思います。

 本書では最後に第二のJAXAを以て、競争原理を取り入れることを一つの回答としてあげています。理想をいえば、完全民間の政治的要素がいっさい関与しない営利企業としての組織を立ち上げ、JAXAとの競争を行うのが一番だと思います。難しいことでありますが。いずれにしても、企画立案から予算・物資調達、研究・開発、製作、運用までを一手に行える組織と、それを機能的に動かすことのできるリーダーがあれば、確かにおもしろいことになっていたと思います。

 これは一朝一夕に改善されるほど浅い問題ではなく、ことは日本を導く一番上の機構にある非常に根深い問題であることは確か。自分たちにできることは、夢を失わず、次代に夢を見せられるように、できることを精一杯やっていくことしかないんでしょう。

 子供が夢を、未来を見なくなったら、「日本という国」のこれからの発展はあり得ないでしょうから。


関連: 松浦晋也×笹本祐一対談『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』

2004年01月25日

【笹本祐一】ARIEL 20



ARIEL〈20〉表紙


「ARIEL 20」
著者:笹本祐一
イラスト:鈴木雅久
朝日ソノラマ文庫 公式サイト
 

 ARIELの第一巻が発売されたのが1987年3月。実に17年弱の時を経て、今ようやっと完結です。よくまぁこんなすちゃらかな話をきれいにまとめたものです。さすがにこれだけの長丁場で、何でもありなお話だったので、そこいらに吸収しきれていない複線やエピソードがいっぱいありますが、それにしてもさわやかなエピローグでした。うれしいことに、宇宙人側の「その後」はまた「ARIEL読本」に収録されるらしいので、これを首を長くして待つことにします。

 ARIELシリーズは、以前にOVA化されていますが、せっかく完結したことだし、ここらでもいっかい今のCGばりばりにして是非に映像化して頂きたいところ。ソノラマにがんばってもらえないだろうか……。

 ワタシが笹本氏の本を手に取ったのは、1997年の「星のパイロット」から。それですっかり笹本氏に撃沈され、書店や古書店を巡って著作を漁り、すったもんだの末に、富士見ファンタジア版の「RIO」を発見したり、「星のダンスを見においで」の後編がどうしても見つからずにじりじりしていたりしたあげく、すっかり影響を受けて、今や宇宙開発の端っこでお仕事までするようになりました。まさにワタシの根本に大きく影響を与えた一人であることは確かです。

 長い長いお話が一段落ついたわけですが、「星のパイロット」や「ほしからきたもの」、「小娘オーバードライブ」など、続編が待たれるモノも多くあるし、何より新作が早く読みたいので、ロケット取材もほどほどに、お仕事がんばってください。

2004年01月14日

【近藤信義】ゆらゆらと揺れる海の彼方/電撃文庫



ゆらゆらと揺れる海の彼方表紙


「ゆらゆらと揺れる海の彼方」
著者:近藤信義
イラスト:えびね
電撃文庫
 

 カナンなる門を抜け、海獣を駆るは冥海。繰り広げられる合戦。二大国のはてなき戦……。

 何とも壮大げな空想戦記物の雰囲気ですが、今後はこのまま戦記物でいくのか、創世ロマンorミステリーに進行するのか、楽しみな感じです。

 造語を以て語られる世界観。元はSFだったと言うだけに、カナンを転移門に、海獣を戦艦に、冥海を宇宙空間に読み替えたならば、まるで銀英伝か星海かという感じですが、独自の世界観のおかげで、独特な雰囲気を持ったモノになっています。

 中心におかれたキャラクタもなかなかに皆魅力的。軽いタッチの掛け合いが好きなワタシには好みの流れです。惜しむらくは、敵さんがステレオタイプのやられキャラが多めなことでしょうか。ただ、今後の期待株が一名ほどいるので、ここに期待しましょう。

 まだ一巻目。分厚いですが話の種がまかれたところ。これからの話の展開を、楽しみに待てる一冊です。

 …にしても、「何となれば…」ってので後藤隊長が浮かぶのはワタシだけだろうか…。

【高野和】七姫物語 第二章 世界のかたち/電撃文庫



七姫物語(2) 世界のかたち表紙


「七姫物語 第二章 世界のかたち」
著者:高野 和 
イラスト:尾谷おさむ →空想カーニバル
電撃文庫
 

 第九回電撃ゲーム小説大賞・金賞受賞作のやっとこでた続編。

 初作同様の淡いタッチの物語り。七姫の視点のためか、戦は端折られ、戦後の話から始まり、ちょっと虚をつかれた感じ。未だ、話の全体像がつかめないけれども、なんだか国盗り物語りから「自分探しな人間ドラマ」に印象が変わりました。ほかの六人の姫が実像を結んだおかげで淡い澄んだ青一色だった色合いに、いろんな色が混じって、少しの鮮やかさが出てきた感じか。

 特に大きなイベントも何もない一冊だけれども、今回はなにか、中心の姫様に引っ張られて読み切った一冊。文章がきれいで、脳内情景が浮かびやすいのもその遠因かも。

 ちょっと化けたかな、と思える二巻目でした。願わくば、次巻が早く刊行されることを。

2003年12月11日

【渡瀬草一郎】空ノ鐘の響く惑星で



空ノ鐘の響く惑星で表紙


「空ノ鐘の響く惑星で」
著者:渡瀬草一郎 →草一屋
イラスト:岩崎美奈子 →GREAT ESCAPE
電撃文庫
 

 渡瀬氏の新シリーズ。本人曰く苦手なファンタジーモノだそうで。しかし、陰陽も寄生月もファンタジーっちゃファンタジーな気もしますが。今回は、絵師が絵師なだけに、どうしても英雄伝説シリーズが頭に浮かんでしまうのはある意味すり込みのせいでしょうか。でも、岩崎女史の絵は雰囲気があって大好きです。

 シリーズ最初ということで、場の雰囲気を広げ、これからの話を転がす一押しがされた一冊。主人公の王子様がなかなか利発なナイスガイで、ちょっとした愛嬌もあるのは渡瀬氏の特徴でしょうか。次が二月後には早くも刊行のようなので、楽しみに待ちたいと思います。

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