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2001年07月26日

【乙一】夏と花火と私の死体


「夏と花火と私の死体」
著者:乙一
イラスト:
集英社文庫
bk1

 方々で絶賛されている乙一氏のデビュー作を文庫にしたもの。表題作の「夏と花火と私の死体」と「優子」の2本の短編が収録されている。基調はホラー色。
 「夏と花火と私の死体」は、9才の夏、友達であるところの弥生に殺されて「死体になってしまった『五月』」の視点から、死体処理に追われる弥生とその兄、健の様子を描いた話。弥生の小さな嫉妬と、その後の恐怖はよくわかる。だけど、健の冷静さだけはすこし首を傾げてしまう。ちょっとサイコが入っているような描き方だけど、不気味過ぎかな。そこがホラーらしくもあるのだけど。「死体の視点」という変わった人称で進む話は確かにおもしろい。そこで描かれる状況も、空気が感じられるようで心地いい。最近、絵が見えない小説が多いので、こういう物を読めるとうれしくなる。不満なところは、前述の健の冷静さだけど、それも、最後を引き出す伏線としておかれているのかと考えると、必然なのかな? ここはちょっとわからない。もしそうなら少し言葉が足りないか。
 「優子」は作家・政義と、政義の世話をする、友人だった人形師の娘・清音、それから書斎で寝たきりでほとんど姿を見ることのない政義の妻・優子の話。小説という媒体をうまく使った話なんだと思う。文章になっているのは情報の一部で、それも嘘はついていないかもしれないけど、真実でもないかもしれない。そういうことをうまく使っているのだと思う。ちょっと複雑すぎて、結局誰が正しいのかがワタシにはよくわからなかったけど。乙一氏の話は、こういうのが良くできている。ミステリーなんかで言う「ミスディレクション」というやつかな? 最後の最後で、「ちぃ、だまされた!」ということがたまにある。巧妙すぎて気づかないから。これはそんなにホラー色は強くない。
 小野不由美氏の解説を読んで、こういう文章に破綻がなくきれいに流れる様な物を「構成力・観察力に優れる」というのだと実感した。ホラーが大丈夫なら読んで見るべし。

【乙一】天帝妖狐


「天帝妖狐」
著者:乙一
イラスト:
集英社文庫
bk1

 JUMMP J-Booksで出ていたものを文庫におろしたものの二冊目。「A MASKED BALL」と、表題作の「天帝妖狐」の2本収録。今回は死体が出てこない分ホラー色も弱め(笑)
 「A MASKED BALL」は、学校で何気なく見るトイレの落書き、そこから始まる奇妙なコミュニケーションが引き起こすちょっとした事件の話。これまたミスディレクションがうまいこと。人物の配置が絶妙で、結構だまされました。落書きコミュニケーションズの5人のうち、「V3」氏が最初誰だかわからなかった。読み直して、納得。最後の終わり方が、何とも心地よく、決して笑い話ではないのだけど、ちょっと口元に笑みが浮かぶ。そんなエンディング。
 「天帝妖狐」は、ホラーよりはオカルトかな? ネタは誰もが一度はやってみた事があるであろう「こっくりさん」。物語は二つの視点で、片方は手紙の体裁をとっている。出だしが終わりの時からさかのぼるので、そこもまた雰囲気を醸し出す。「何が起きたのか、わくわく」、とそんな感じ。これはミステリーの手法かな。特に謎掛けも何もなく、メインは中心の二人の心情の動きといったところか。これまた最後がなんとも、いい。ちょっとセンチになってしまう、そのもっていきかたがニクイですな(笑) 結局最後まで「こっくりさん」の正体に明確な答えが与えられないんですけど、ちょっと気になりますよねぇ。答え、あったのかな、ひょっとして……。
 「夏と花火と私の死体」に比べれば、軽めの話だけど、中身は十分。乙一氏の長編も読んでみたいと思うけど、短編だからこそ、言葉が多くなくていいのかも。

2001年07月15日

【山下 卓】BLOOD LINK 獣と神と人


「BLOOD LINK 獣と神と人」
著者:山下 卓
イラスト:HACCAN
ファミ通文庫
bk1

パパ顔こと「DADDY FACE」と主人公近辺の構成が似ているというので読んでみた。似ていたのは主人公とヒロインの年齢差が大きいだけだった。高校生と小学生のカップリングは問題ありだと思う。中身は猟奇物かなー? おかしな虫に寄生された人間が人を殺す。それを「駆除」するための怪しい組織がある。身近な人間が「寄生」されたことで主人公達が巻き込まれる。そういう流れ。
 なぜかはわからないけど、ワタシにはあわなかったです。文章が読みにくいとか、キャラがいけ好かないとかそういうことはなかったけど、生理的に駄目。たぶん話の内容がスプラッタだからでしょう。主人公に思いを寄せる同級生がイタイ、つらい。それも原因かも。

2001年07月09日

【佐藤ケイ】天国に涙はいらない3 あだ討ちヶ原の鬼女


「天国に涙はいらない3 あだ討ちヶ原の鬼女」
著者:佐藤ケイ
イラスト:さがの あおい
電撃文庫
bk1

 オカルトネタが基本のはずの、ただの「萌え」小説の三冊目。
 今回のネタは「鬼」。だいぶ話の展開にもこなれてきて、おもしろく読めるのだけど、「萌え織天使」アブデルがやりすぎ。いい感じで話が流れているのに、ちょこっと入る「萌えネタ」が気分をさましてしまう。ここまでねらわれすぎてしまうと逆にえげつないというか。もうちょっとふつうに話を展開してもらえれば、素直に楽しめるのに。ウケの取り方がいわゆる「内輪ネタ」に近いせいかも。背景にある情報量とかは豊富だから、難点はここだけかなー。きわどいシリーズなんだよなー。

2001年06月23日

【榊 一郎】赦されざる者達の騒動歌


「赦されざる者達の騒動歌」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 うん、やっとキャラクターが走り始めたかな、といった感じの二巻目。なんだか大きめな伏線も見え隠れし始め、いい感じで話が勢いづいてきました。それにしても、これにでてくる魔法の名前にはやられましたー。ほとんどが北欧神話由来なんだものなー。ともあれ、おもしろくなってきたので次も続けていってみよー、ということで速攻三巻目も購入。こうやってドつぼにはまっていくのね……。

【佐藤 ケイ】天国に涙はいらない


「天国に涙はいらない」
著者:佐藤 ケイ
イラスト:さがの あおい
電撃文庫
bk1

 今年の電撃ゲーム小説大賞金賞受賞作。個人的にいつもツボにはまるのは大賞受賞作より金賞受賞作の方が多いので、今回もとりあえず金賞受賞作から。

 ロリコン天使とか、志保ちゃんバリのゴシップ報道少女とか、そーゆー濃いキャラクターたちと随所にちりばめられた軽いノリのおかげで、結構重い話もすっと読めておもしろい話ではあるのだけど、最後だけはいただけないかなー。というか、ページ数不足なのかな? 一番盛り上げたいところ(盛り上がってほしいところ)がすごく淡泊で拍子抜け。最後のマニアックバカギャグはいらないからせっかくの見せ場をもちっと劇的にほしかったかな、個人的に。続編を出すとあとがきにあったのでこれからどう展開していくのか、それは楽しみ。オカルト系の知識も深いのでその辺でも楽しみ。次巻以降に期待、でしょうか。

【榊 一郎】捨て猫王女の前奏曲


「捨て猫王女の前奏曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 久々の富士見ファンタジアです。表紙の絵にやられました(笑) 「スクラップド・プリンセス」(通称:棄てプリ)なるシリーズもの。ファンタジアらしい、実に軽めなどたばた劇。題名の通り、まだプロローグ色が強いから、あまり話は進みません。これから、本筋開始、というところでしょうか。双子の兄姉と血はつながっていないけどいっしょに育った主人公が実は……。ありがちな設定だけど、キャラクターたちはいい味だしてるので、期待はできるかな? ただ、雰囲気が初期の「魔術師オーフェン」に似ている気がする。今後の展開で、評価がどっちに転ぶか、かもしれない。いずれにしても、これからという感じの一巻目でした。

【榊 一郎】半熟騎士の行進曲


「半熟騎士の行進曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 イー感じに盛り上がってきております。「廃棄王女」ことパシフィカの強さと優しさが、心にしみます。こういうのにワタシ弱いんですな。ちょこっと背景が表に出始めてきていてこれからの動向に期待、大です。

【三枝零一】ウィザーズブレイン


「ウィザーズブレイン」
著者:三枝零一
イラスト:純 珪一
電撃文庫
bk1

 最新の電撃ゲーム小説大賞、銀賞受賞作。なぜかこの大賞、一番上の賞の作品よりも二番目以降の方がよく売れるという妙なもの。方々で話題になっているので読んでみました。

 確かに、金賞受賞作「天国に涙はいらない」より、こちらの方がおもしろいです。きれいに完結している割に、世界観は広く展開の仕方として川上さんの「都市シリーズ」に近いものがあるのかもしれません。情報で物理法則を支配するという観点もおもしろいかな。物理関係の話が色々と出てくるので、その辺がだめな人にはつらいかもしれませんが。個人的には、主人公錬君を巡って繰り広げられた各国軍部と兄姉の戦いあたりのお話も読みたいです。「天国」より、続編が楽しみです。しかし、この「天国」の方はすでに続刊発行予定があがっていたりもするんですけどね。

 今回のゲーム小説大賞、大賞受賞作が該当なしのせいもあり、ちょっと不作かも。前回の「ダブルブリッド」とか「リングテイル」とか結構おもしろかったんですけどね。

【榊 一郎】異端者達に捧ぐ鎮魂歌


「異端者達に捧ぐ鎮魂歌」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

いいですねー、腐れ神官。こういうキャラクター大好きです。なんか影もってて、強くて。古いところですけど、「卵王子カイルロッドの受難」(冴木忍)のイルダーナフみたい(←ふるいなー)。まだ爆裂王女も着実に強くなっているようで(精神的に)、ほほえましくもたくましく、物語は適度にシリアス、適度におちゃらけ、イー感じで進んでいきます。この調子で行ってほしいものですなー。「オーフェン」は最近シリアスすぎてちょいとおもしろくなくなってしまったので、二の轍は踏まないことを願います。

【榊 一郎】つかの間の歌劇曲


「つかの間の歌劇曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 今回は外伝的なお話。どたばたのタイトル通りの歌劇? いい感じでキャラクターの立ち具合がパワーアップ。脇役の人たちもいい味だしてます。「文化祭」のノリというのもまた、つぼをついててグッド(笑) 最近SFづいていたので、こういう素直なやつを読むと気楽でいいですな。

【榊 一郎】捨て犬少女の夜想曲


「捨て犬少女の夜想曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 というわけで、「棄てプリ」も5巻目突入。今回のテーマは「揺れる乙女心」か?(笑) 血のつながらない兄妹愛のお約束色が、巻を追うごとに濃くなっていきます。つぼを押さえた話の運びですねー(笑) 大分背景もはっきりしだしましたが、まだ結末を予測できるほどでもなく、話の半分くらいかな、との印象。「続刊以降期待!」という部分が着々と増えていって、おもしろいです。久方ぶりにいいものに逢えたようですね。

【榊 一郎】通りすがりの子守歌


「通りすがりの子守歌」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 「棄てプリ」こと「スクラップドプリンセス」シリーズ最新刊。今回は番外編のようなもんでしょうか? ほのぼのハートフルファンタジーって銘打ってるだけに、全体的にのんびりした雰囲気なのは読んでいてほっとします。ラクウェルがその大きな原因であることは間違いないと思いますが。番外編であるところの今回の見所は、誰がなんと言おうと「すーぴぃくん」でしょう。ちっちゃいすーぴぃが「んごんご」言いながら大量におそってくるところはビジュアルでほしかったと思うのはワタシだけではないはずです。ぬいぐるみ、ほしいかもなぁ、すーぴぃくん。今後ちょっと気になるのは、冷徹な駒だったクリス君が最近ちょっと軽くなってきたこと。今後彼がどう変わっていくのか、この辺も注目かも。ちょっと視点が違うけど(笑)

【川上 稔】機甲都市 伯林4 パンツァーポリス1943


「機甲都市 伯林4 パンツァーポリス1943」
著者:川上 稔
イラスト:さとやす
電撃文庫
bk1

やっと終盤伯林4冊目。やっと見えてきた感じですが、ここまで来てどうも話の流れが巴里くさい。今まで出てきたものども総動員の様相ですが、どう収束するのか。次がやっとこラストのようなので、それを見てってかんじでしょうか。それにしても、こういろいろと出てくると、「都市世界」の年表とギミック説明集とかがほしいですな。ガイドブック、出してくんないかなー。そろそろ頭の中のイメージだけではおっつかなくなってきました(泣) 根底のネタが第二次大戦だけに、このへんの実史を知らないせいもあるのかな、理解不足は。いずれにしても次です、次。
 どーでもいいけど、表紙、やばめですよ、川上さん(笑)

【伊達 将範】リムーブカース(上・下)


「リムーブカース(上・下)」
著者:伊達 将範
イラスト:しろー大野
電撃文庫
bk1

 「DADDY FACE」ではまってしまった伊達さんの既刊。転生ネタです。

 話の中心には一組の男女。互いがずいぶん前の前世に因縁を持つ仲なれど、男はその記憶を持つが、女はまるで持たない、とある種典型な話かも。それに他の人々が関わってくるのですけど、上下二冊とはいえページ数が足りなかった。もったいないくらいに。魅力的なキャラクターばかりなのに、視点がまるで部外者のように無知な前述の女の方のために、あまり掘り下げてもらえなかった人たちの多いこと。「DADDY FACE」並の厚さで上下巻あれば、もっとおもしろかったのにという印象。対局な立場であるところの敵さんももちっと掘り下げてほしかったけど、なにより「娘」であるところの水蓮をもっと出してほしかった。著者本人のサイトに、これ関連でショートストーリーが何編かあるけど、これが文庫に入っていれば、と思う。でも、最後の方はちょっと「BUSTERD!」入ってたかな? メタトロンとか、その辺で。これはちょっといただけないかなー、とも思う。惜しいっ、て感じ。

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