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2006年08月11日

【河井克行】国家としての宇宙戦略論

国家としての宇宙戦略論
国家としての宇宙戦略論
河井 克行 他
誠文堂新光社
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 たまたま書店の店頭で笹本氏の「宇宙へのパスポート3」の隣にあったので手に取った単行本。まとめた河井氏というのはれっきとした (?)自民党の衆議院議員さんである。 この人が中心で動いている宇宙議連での勉強会においてその筋の専門家がしてくれたお話をまとめたものである。

 初っぱなから五代富文氏である。LE-5が非常に高い評価を得ていたのに,広義での「平和利用」の壁にぶち当たり, 世界の宇宙業界においてトップランナーにたつ貴重な機会(その後,こんな機会は今に至るもない)をフイにしてしまったこと。 少ない予算がために細い細い蜘蛛の糸に乗っかってプロジェクトが進むこと等々,いきなりうなずくしかないことがずらずらと。

 続いてSJAC(日本航空宇宙工業会)の理事・田中俊二氏が宇宙産業の現状について。いかに日本の宇宙産業が世界規模で小さいか, 多くの産業機会があり,インフラもあるにもかかわらず, なぜか周辺産業が用いるインフラは他国のものである現状などが悲しいくらいに述べられている。

 三番目は防衛畑出身の志方俊之氏。北のミサイルが日本列島の上空を越え, 三陸沖に降ってきたとたんに突然スムーズに物事が決まってしまった情報収集衛星(IGS)に対する考察。「軍事大国」の道をとらず, 他国からの侵略から身を守り,自立を維持するのであれば,せめて「情報大国」であるべし,と。 いくらアメリカの傘の下に入れてもらっているとはいえ,外交はギブアンドテイク。 ましてや戦略情報などこちらのネタがないのに土下座したってもらえない。こちらのカードくらいは, 先進国として自前で用意する必要があるでしょう,と。そしてこの志方氏,最初にもっともうなずけることを言っている。 「日本がこれからどこへ行こうとしているのか,いくべきなのか,それが誰にも見えていない」 「日本人は目標が与えられるとしっかりと前進するが,自らが目標を作ることが一番苦手」 全くその通り。

 稗田浩雄氏は最近着実に宇宙大国への道を一歩一歩進めている中国と,その他進歩著しい周辺各国の動向について。 中央に幹を据えて進むことがいかに巨大プロジェクトには重要であるかが実感しきり。

 超小型衛星でチャレンジングなことをたくさんしてくれる東大の中須賀教授が世界の衛星サイズの動向と, 超小型衛星に拓ける未来やその用途などなどを。

 最後に,青木節子女史が宇宙利用に関する国際法を絡めて,日本の「平和利用」原則について説明してくれている。

 全編通していちいち頷いてしまう内容である。とにかく一番に感じるのは,「日本という国がどこに行くのか,どこを目指すのか」 「そのための道具として宇宙をどう使っていくつもりなのか」 大局的な視点に立った確固たる国策方針が皆無であることがすべての問題点の根底にあるのだということ。これについては宇宙に限らず, あらゆることについてだと思うけれども。スローガンだけは立派だけれども……。

 宇宙議連というものが発足したことは以前に新聞報道かなにかで見知ってはいたが, おそらくたいしたことはできないだろうとろくに期待もしていなかった。それがこんな勉強会を開いていたとは……。 是非是非河井氏はじめ議連の方々には,まずは日本の「宇宙利用基本法」の成立に向かって頑張っていただきたい。 宇宙村の住民と言うだけでなく,なにより星空を見上げてそのあこがれを抱いて成長してきた人間の一人として応援していきたい。

 

2006年06月20日

理系白書 この国を静かに支える人たち

理系白書 この国を静かに支える人たち
理系白書 この国を静かに支える人たち
毎日新聞社科学環境部
講談社
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 「はたして,理系は報われているか?」

 報われているという人もいれば,全く報われてなんてないね!という人もいそうですが…。

 最近定期的にチェックしている「理系白書ブログ」。 毎日新聞で連載している「理系白書」で担当をされている元村さんが多岐にわたる(おいしそうな食べ物ネタが多いけれども) 話題を提供していて,それにのっかって様々な人が活発に議論を繰り広げることもあるブログ。ここで,ずいぶん前に出版されていた「理系白書」 の連載をまとめたものが文庫落ちしたというので,仮にも理系・技術者のはしくれなので手に取った。

 単行本の出版は2003年ということで,さらに新聞連載をまとめたことから話題が少し古いのは致し方ないとしても, ちょうど島津製作所の田中さんや小柴教授のノーベル賞が話題になった頃だったからこんなネタで連載がもてたのかなとも思ったり。

 しかし,最初の話題がいきなり理系と文系の給与所得差とは…。最近職場でも話題になるけれども, エンジニアっつーのは偉くなれないから必然的にお給料も安かったりするわけで。エンジニアでもマネージメント能力に適正があれば, それなりに偉くなれるけれども,そうでない技術一本槍の人であってもそれなりの役職と手当ができるルートが必要だよね, なんて話をしていたり。

 国を動かすところにいるのが文系人間だけの割に「科学立国」を標榜できていたり,身近に就職先がなくてポスドクで流浪している (もしくはしていた)ドクターがいたり, そーいえば大学の隣の研究室の女性の助手さんがやっぱりいろいろ大変だって日本酒をざるのように飲みながら愚痴ってったっけなーとか, 「理系=オタク」の図式はしっくりきやすいのかとか,お金に困らなかった大学時代の研究室の先生はやっぱりすごかったのかなーとか, いろいろと頷けるところ,考えさせられるところ多々あり,おもしろい。

 今の「理系」を取り巻く環境は,これまでの蓄積に成り立っていて,問題点が多いことがわかっていても, 一朝一夕に改革できることでもなく,機会あるごとに声を上げて少しずつ意識を変えていかなくてはいけないんだと実感。 内にこもっているだけでなく,広く外に目線を向けなくてはいけませんね。

 まずは自分の仕事を,どんな人でも理解できるように説明できるようにならないといけないかなぁ。

2006年05月18日

デルフィニア熱 再来

 先日,デルフィニア戦記の外伝であるところの「大鷲の誓い」を読んでしまい,にわかにデルフィニア熱が再来してしまった…。

 新書は全部実家に置いてきてるので手元にないけど,ありがたいことに文庫版をなぜかそろえてしまっていたので,全十八冊,先週から土日にかけて読破。

 最近当たりくじをなかなか引かないので,没頭できる本を読める幸せを久しぶりに実感。やっぱりこれは名作ですなぁ。しみじみ楽しみました。

 ついでに自重でゆがんできていた据え付け本棚が不憫になってきたので,一部をブコフにドナドナ。新しい文庫が多かったので,200冊でそれなりになりました。これで半分くらいになったかなぁ…。

2005年05月29日

【松浦晋也】スペースシャトルの落日

スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~
スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~
松浦 晋也
エクスナレッジ
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 松浦氏の新刊。「軌道上に人と物を繰り返し繰り返しやすく運ぶことができる」 というアメリカのスペースシャトルは大きな失敗作だったという,衝撃的な内容。

 シャトル運用上の二つの大きな事故を見直し,そもそものプロジェクト進行をトレースすることで,技術的な問題点, コンセプトのまずい点などをあげていくと,結局は技術的に失敗だったというよりも,政治に失敗させられたということになってしまうご様子。

 そして,その「失敗作」にしがみついたがために,停滞してしまった世界の宇宙開発。 日本はその波をもろにひっかぶってしまったわけで。

 次を考える時には,同じ轍を踏まないことが大事。不適合はちゃんと是正して反映しないといけない。 それをしっかりと意識しながら仕事をしていきたいと思う。

2005年05月21日

【的川泰宣】轟きは夢を乗せて 喜・怒・哀・楽の宇宙日記

轟きは夢をのせて―喜・怒・哀・楽の宇宙日記
「轟きは夢を乗せて 喜・怒・哀・楽の宇宙日記」
著者:的川泰宣
共立出版
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 旧ISASの教授で,JAXAではすっかり顔出し担当になってしまった的川先生が,日本惑星協会のメールマガジンで「YMコラム」 として連載していたものを,実に1999~2004年の五年分まとめたもの。激動の宇宙開発の裏側と, 現場の人が抱く宇宙への思いやらなにやらをさらけ出したものになっています。

 単純に裏話暴露本というわけではなく,技術的な話,科学的な話,教育の話とかなりつっこんだ部分もおおく, ちょっと読むのが大変かもしれませんが,わかりやすく書かれているので,これをがんばって読むと, 今後宇宙関係のニュースがわかりやすくなると思います。

 H-II8号機からはじまり,M-V五号機,のぞみ,H-IIA6号機と失敗が報じられるたび, 現場の人たちがどんなにがんばってきたのか,とくに長い戦いになったのぞみについては,その激闘が詳細に報告されています。

 そして何より的川先生が熱心に綴っているのが子供たちに対する教育について。本書にも繰り返し構想が語られていますが, 先日それが結実し,「宇宙教育センター」という組織が発足しました。 これからがスタートで,正念場だとは思いますが,ぜひぜひ発憤していただきたいと思います。

 すこしでも宇宙に興味があったら,是非読んでみてください。宇宙開発というものをどんな風にやっているのか, その一端を知るきっかけになると思います。また,是非,リアルタイムで知っていただきたいのでメールマガジンの購読もおすすめです。

2005年02月11日

【田中芳樹】夜行曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿

薬師寺涼子の怪奇事件簿 夜光曲
「夜行曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿」
著者:田中芳樹
イラスト:垣野内成美
祥伝社NON NOVEL
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 いったい何社からでるのやら……、なお涼様の新刊です。今回の舞台は魔都・東京。

 今回は、なんだか犯人が唐突にすぎて、盛り上がりに欠けた感じが。お涼vsお由紀もいつもの勢いがなくて、目につくのはいつもの田中流の世相への皮肉ばかり。これに関しては、いつも多かれ少なかれあるので慣れているし、それをギャグにしてるから笑えるのだけど、今回はちょっときつめだったかな。そのせいで今ひとつ乗り切れなかった感が。

 一番の見せ場は朴念仁・準一郎君が珍しく断言しきったあとのお涼様の反応のところかと。なんだけど、ここももう少し色気がほしかったかなぁ。

 なんか薄かった新刊でした。

2005年01月27日

【菅 浩江】五人姉妹



五人姉妹表紙
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「五人姉妹」
著者:菅 浩江
早川文庫
 

 SFな日常にちょっと混じった人間ドラマ,そんな感じの短編集。菅さんのは「博物館惑星」が初めてで,その後日談があるというので手に取った新刊。

 俗に言うSFのごてごてと科学考証しているような話はなく,あくまでも一要素でしかないのが読みやすくていい。クローンや試験管ベイビー,介護されるロボットに成長する人工臓器,ロボットペット等々,そんな科学から透かして見える「人間」という生き物。少しは自分を省みて考えさせられるような,9編それぞれの人間ドラマです。
 最後の加納朋子女史の解説もおもしろい見方がされていて楽しめました。

2005年01月09日

【秋山瑞人】ミナミノミナミノ



ミナミノミナミノ表紙
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「ミナミノミナミノ」
著者:秋山瑞人
イラスト:駒都えーじ →Passing Rim
電撃文庫
 

 イリヤ以来の久々の新刊。…ですが,あえて言う。

 EGFは!?

 ともあれ,後書きにもあるように,イリヤのアニメ化を受けての新刊。またしても夏のボーイミーツガールな話。
 まだ始まりなので,スピードのった展開にはなってません。今までのように怒濤の勢いな文章でもなく,少し抑えめの印象ですが,所々に「らしい」部分がちゃんとあります。
 正時くんが「ここだ!」と思った下りなんかは一番のヒットかな。

 この先一気に最高速に持って行って,どかんと鬱展開に持ち込まれるか否かはちっともわかりませんから,どきどきしながら次を待つしかないわけで。なんにしても,

 EGFは!?

2004年08月24日

【加納朋子】ささらさや



ささらさや表紙
[amazon]


「ささらさや」
著者:加納朋子
幻冬舎文庫
 

 じんわりと心の温まる話を書いてくれる加納さんは,最近結構お気に入りです。「ななつのこ」と「魔法飛行」ですっかりはまってしまい,これも購入。

 新婚ほやほや,赤ん坊も生まれて幸せな,なんてことない日常を過ごしていたはずなのに,突然舞い降りた夫の交通事故死というイベント(描写のタッチに悲壮感のみがあるわけでなく,何となく軽いので)。それを契機に,弱気でぽやーっとした「サヤ」に訪れる数々の出来事とささやかなミステリー。その解決に動くのは,死んだはずの夫の幽霊?

 巻末の解説にあるように,まさしく某洋画のような話ですが,三婆やヤンママのような個性的な面々のおかげで,暗くなるだけの話でなく,何となくコメディが混じったような,だけど温かい,「ななつのこ」なんかと同じく,なんかほっとするお話です。

 最近,殺伐とした話しか見聞きしないようになってしまったので,こういうほんわかする話は精神的安定剤としてありがたい限りです。

2004年04月25日

【田中芳樹】黒蜘蛛島-薬師寺涼子の怪奇事件簿



黒蜘蛛島表紙
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「黒蜘蛛島-薬師寺涼子の怪奇事件簿」
著者:田中芳樹
イラスト:垣野内成美 →Official Web
カッパノベルス
 

 週末まで十日ばかしの出張に行っておりました。ウィークデイはほとんど深夜までのお仕事で、よれよれになって寝るだけでしたが、日曜はお休みだったので、そのときのリフレッシュ剤として物色して、手に取ったのがこれ。ショージキ、垣野内成美女史のイラストにふらふらと吸い寄せられたのです。

 成績優秀才色兼備さらにお金にも困らない天下無敵の警視庁キャリア組警視殿・泣く子も黙る「ドラまたリ……」 いやいや、「ドラよけお涼」とその忠実な椅子兼犬兼忠臣兼部下その他諸々の泉田警部補が巻き込まれるのか、引き寄せるのか、はたまた原因なのか、たびたび遭遇する人外な事件の数々。それをことごとく蹴散らしていくお涼に拍手喝采を浴びせる痛快伝奇アクション?

 ま、天下の田中芳樹の現代舞台などたばた劇ですから、その端々にいつもの毒が混入されるのはいつものこと。しかし、今回はいつもとちょっと違う。何てったって主役は天下無敵の女王様。笑い方だって腰に手を当て、胸張って、手の甲口に当てて「おーほっほっほ!」だし。そんなそこのけな人がたまに見せる一面に弱いんですなぁ。単純ですが。もともと美神令子みたいなのに弱いんです。そりゃツボです。さらにネタが世界各地の神話伝説に語られる怪物たちとくれば、メガテンスキーの血が騒ぐ。

 というわけで、一気に既刊を読破したわけです。そして、何てったって田中芳樹。続刊は期待せずに待つしかありません。普段はあまり言及しない恋愛模様を、田中芳樹はいかにまとめるのか? というか泉田君の不幸はいつまで続くのか? ま、のんびり待つとしましょう。

 久々に単純痛快娯楽ものを心の底から楽しんだ感じですな。

2004年02月14日

【松浦晋也】国産ロケットはなぜ墜ちるのか



国産ロケットはなぜ墜ちるのか表紙


「国産ロケットはなぜ墜ちるのか H-IIA開発と失敗の真相」
著者:松浦晋也
日経BP社

 笹本祐一氏とともに、たびたび各国のロケット打ち上げの取材にいき、たまに日経Biztechなどで現在の日本の宇宙開発に関しての記事を載せるノンフィクション・ライターであるところの松浦晋也氏の新刊。中身としては、日経Biztech等の記事を核にして少しふくらませた、日本の宇宙開発、ひいては科学技術政策全体の持つ問題点を指摘したものになっている。

 著者が「ふじ計画」に携わったり、多少なりとも仕事とは別の側面を持ってロケット打ち上げの取材に赴いていることからも、主張に宇宙開発推進の偏りがあるのは致し方ないところですが、ほかのマスメディアにおいて、このように詳しく、実情を含めた報道がなされていないことから、貴重な情報源であることは確かです。

 昨年11月のH-IIA六号機、「みどり2号」、「のぞみ」、「MTSAT」などの失敗を中心に、日本の宇宙開発における問題点がどこかという話。大きくいってしまえば三つ。
 
 「政治(政策)」と「組織」と「対アメリカ」

 とはいえ、結局のところ「政治」がすべてなのかもしれません。理工系的教養が皆無の政治家・官僚によって企画・立案・遂行される自我なき宇宙開発政策。「対アメリカ外交」のあおりを食って生け贄にされる「国際協力」という名の宇宙開発。霞ヶ関の思惑のみを反映した旧NASDAと新生JAXAの組織構造。
 トラブルのすべてを予算不足のせいにすることはできませんが、限られた予算でも、少しの理工系的教養と芯をもった政策と常識的にフレキシブルな遂行組織とがあれば、今現在の状況は全く変わっていたように思います。

 本書では最後に第二のJAXAを以て、競争原理を取り入れることを一つの回答としてあげています。理想をいえば、完全民間の政治的要素がいっさい関与しない営利企業としての組織を立ち上げ、JAXAとの競争を行うのが一番だと思います。難しいことでありますが。いずれにしても、企画立案から予算・物資調達、研究・開発、製作、運用までを一手に行える組織と、それを機能的に動かすことのできるリーダーがあれば、確かにおもしろいことになっていたと思います。

 これは一朝一夕に改善されるほど浅い問題ではなく、ことは日本を導く一番上の機構にある非常に根深い問題であることは確か。自分たちにできることは、夢を失わず、次代に夢を見せられるように、できることを精一杯やっていくことしかないんでしょう。

 子供が夢を、未来を見なくなったら、「日本という国」のこれからの発展はあり得ないでしょうから。


関連: 松浦晋也×笹本祐一対談『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』

2004年01月25日

【笹本祐一】ARIEL 20



ARIEL〈20〉表紙


「ARIEL 20」
著者:笹本祐一
イラスト:鈴木雅久
朝日ソノラマ文庫 公式サイト
 

 ARIELの第一巻が発売されたのが1987年3月。実に17年弱の時を経て、今ようやっと完結です。よくまぁこんなすちゃらかな話をきれいにまとめたものです。さすがにこれだけの長丁場で、何でもありなお話だったので、そこいらに吸収しきれていない複線やエピソードがいっぱいありますが、それにしてもさわやかなエピローグでした。うれしいことに、宇宙人側の「その後」はまた「ARIEL読本」に収録されるらしいので、これを首を長くして待つことにします。

 ARIELシリーズは、以前にOVA化されていますが、せっかく完結したことだし、ここらでもいっかい今のCGばりばりにして是非に映像化して頂きたいところ。ソノラマにがんばってもらえないだろうか……。

 ワタシが笹本氏の本を手に取ったのは、1997年の「星のパイロット」から。それですっかり笹本氏に撃沈され、書店や古書店を巡って著作を漁り、すったもんだの末に、富士見ファンタジア版の「RIO」を発見したり、「星のダンスを見においで」の後編がどうしても見つからずにじりじりしていたりしたあげく、すっかり影響を受けて、今や宇宙開発の端っこでお仕事までするようになりました。まさにワタシの根本に大きく影響を与えた一人であることは確かです。

 長い長いお話が一段落ついたわけですが、「星のパイロット」や「ほしからきたもの」、「小娘オーバードライブ」など、続編が待たれるモノも多くあるし、何より新作が早く読みたいので、ロケット取材もほどほどに、お仕事がんばってください。

2004年01月14日

【近藤信義】ゆらゆらと揺れる海の彼方/電撃文庫



ゆらゆらと揺れる海の彼方表紙


「ゆらゆらと揺れる海の彼方」
著者:近藤信義
イラスト:えびね
電撃文庫
 

 カナンなる門を抜け、海獣を駆るは冥海。繰り広げられる合戦。二大国のはてなき戦……。

 何とも壮大げな空想戦記物の雰囲気ですが、今後はこのまま戦記物でいくのか、創世ロマンorミステリーに進行するのか、楽しみな感じです。

 造語を以て語られる世界観。元はSFだったと言うだけに、カナンを転移門に、海獣を戦艦に、冥海を宇宙空間に読み替えたならば、まるで銀英伝か星海かという感じですが、独自の世界観のおかげで、独特な雰囲気を持ったモノになっています。

 中心におかれたキャラクタもなかなかに皆魅力的。軽いタッチの掛け合いが好きなワタシには好みの流れです。惜しむらくは、敵さんがステレオタイプのやられキャラが多めなことでしょうか。ただ、今後の期待株が一名ほどいるので、ここに期待しましょう。

 まだ一巻目。分厚いですが話の種がまかれたところ。これからの話の展開を、楽しみに待てる一冊です。

 …にしても、「何となれば…」ってので後藤隊長が浮かぶのはワタシだけだろうか…。

【高野和】七姫物語 第二章 世界のかたち/電撃文庫



七姫物語(2) 世界のかたち表紙


「七姫物語 第二章 世界のかたち」
著者:高野 和 
イラスト:尾谷おさむ →空想カーニバル
電撃文庫
 

 第九回電撃ゲーム小説大賞・金賞受賞作のやっとこでた続編。

 初作同様の淡いタッチの物語り。七姫の視点のためか、戦は端折られ、戦後の話から始まり、ちょっと虚をつかれた感じ。未だ、話の全体像がつかめないけれども、なんだか国盗り物語りから「自分探しな人間ドラマ」に印象が変わりました。ほかの六人の姫が実像を結んだおかげで淡い澄んだ青一色だった色合いに、いろんな色が混じって、少しの鮮やかさが出てきた感じか。

 特に大きなイベントも何もない一冊だけれども、今回はなにか、中心の姫様に引っ張られて読み切った一冊。文章がきれいで、脳内情景が浮かびやすいのもその遠因かも。

 ちょっと化けたかな、と思える二巻目でした。願わくば、次巻が早く刊行されることを。

2003年12月11日

【渡瀬草一郎】空ノ鐘の響く惑星で



空ノ鐘の響く惑星で表紙


「空ノ鐘の響く惑星で」
著者:渡瀬草一郎 →草一屋
イラスト:岩崎美奈子 →GREAT ESCAPE
電撃文庫
 

 渡瀬氏の新シリーズ。本人曰く苦手なファンタジーモノだそうで。しかし、陰陽も寄生月もファンタジーっちゃファンタジーな気もしますが。今回は、絵師が絵師なだけに、どうしても英雄伝説シリーズが頭に浮かんでしまうのはある意味すり込みのせいでしょうか。でも、岩崎女史の絵は雰囲気があって大好きです。

 シリーズ最初ということで、場の雰囲気を広げ、これからの話を転がす一押しがされた一冊。主人公の王子様がなかなか利発なナイスガイで、ちょっとした愛嬌もあるのは渡瀬氏の特徴でしょうか。次が二月後には早くも刊行のようなので、楽しみに待ちたいと思います。

【樹川さとみ】楽園の魔女たち~楽園の食卓(前編)~



楽園の魔女たち―楽園の食卓〈前編〉表紙


「楽園の魔女たち~楽園の食卓(前編)~」
著者:樹川さとみ
イラスト:むっちりむうにい
集英社コバルト文庫
 

 今回もまた前後編。そして後一冊でシリーズ終了らしく、事態は一気に大事の様相を……。

 前作が番外のような話だったので、冒頭、マリアの使い魔が何者かわからなかったり。ま、そんな細かいことはさておいて、何より気になるのはファリス君の行く末でしょう。いや、サラ嬢の方もなかなかに大変なことになっているようですが、こちらはあまりほほえましさがないので、一押しはファリス君! つか、がんばれ少佐! むうにい女史には「ファリス・ドレスを着る!」全身冒頭カラー折り込みを書いて頂きたかった……。

 お師匠様関連の伏線が放っておかれそうな感じはしますが、姫様とマッドサイエンティストと男装の麗人が幸せになってくれればそれで満足です。幼妻は……、ま、良しとする。

【茅田砂胡】天使の舞踏会 暁の天使たち6



天使の舞闘会―暁の天使たち〈6〉表紙


「天使の舞踏会 暁の天使たち6」
著者:茅田砂胡
イラスト:鈴木理華 →梟の森
中央公論新社Cノベルスファンタジア
 

 世紀の大怪獣、一堂に会す!

 六冊費やして、やったことは結局次への前ふりだけでした。中心で話を引っ張ってくれる新人がいなかったことが一番の敗因でしょうか。確かに、今まで主役を張った人たちが再び登場はうれしいところですが、それがメインになってしまっては……。すべてはあまりに常識人過ぎた「ちびすけ」のせいか。

 なにはともあれ、広げ始めた風呂敷、次のシリーズはしっかり軸を作ってがんばって納めて頂きたいモノです。

2003年09月16日

【葉山透】「9S<ナインエス>」/電撃文庫



9S(ナインエス)表紙


「9S<ナインエス>」
著者:葉山 透
イラスト:山本ヤマト →soybean
電撃文庫
 

 一人の天才科学者が遺した「遺産」 そんな驚異の発明品のひとつが武装集団に占拠された。それを奪還すべく動き出したのは「遺産」専門の特殊部隊。その中には拘束具に包まれた少女……。

 とかいう煽りなんで、特殊部隊モノかと思えば、主人公は全く別物で、肝心の部隊はただの雑魚。というのにちょっと「アレ?」と思ったモノの、中心の二人がなかなか動き軽快で気持ちいいスピードで駆け抜けられました。

 某汚い顔な宝探しの人みたいに、超越系の科学兵器が出てくるが故の蘊蓄が色々と出てきますが、おそらくその辺のSFチックなギミックを考察しないと気が済まない人にはちょっと苦しいかも。ワタシなんかはその辺、「あーそーゆーもんねー」で流してしまうのであまり気になりませんが、ちょっと解説が危険な雰囲気があったのも確かなので。

 人間ドラマは中心二人に関しては、よい感じ。納得。だけど、敵さん側と主人公の血縁の側の人たちの人間模様に関しては、ちょっと中途半端だったかな。

 というわけで、フツーの一冊でした。

2003年09月05日

【小川一水】第六大陸 2



第六大陸〈2〉表紙


「第六大陸 2」
著者:小川一水 →小川遊水池
イラスト:幸村 誠
ハヤカワ文庫
 

 月面開発SFの完結編。実に刺激を受ける遠すぎず近すぎずなお話でした。
 現実的にはいくつか、実現にブレイクスルーが必要なものがありますが、現在の膠着した世界の宇宙開発の動向に対して、こんな風に民間からカンフル剤が注入されるような事態をワタシも望みます。
 なにせ月開発なんて大きな話だけに、かかる年数もそれなりで、それをたった二巻でまとめるために、かなりはしょってしまっているのが残念。でも、あまり長いとだらけてしまうことを考えるとちょうどいいのかも。
 小川氏の描くキャラクターは、みんながみんなプロフェッショナル「らしさ」をもっているから、脇がいなくてみんな主役のように感じられて大好き。話も適度に軽く、SFもしてるし、早川だけど取っつきやすいんじゃないかな。
 こういうものが先の宇宙開発につながっていくことを願うとともに、自分もがんばらねばと思うわけですな。

2003年07月22日

腐女子への第一歩? 「ここはグリーンウッド」

 来週から夏休みだってのに、こんな時期にある三連休のおかげで今日は一日ねむぅ~。つかかなりまずいくらいに集中力なかったな、今日……。やべやべ。後三日しかないからちゃんと働かねば……。

 で、この連休のだいぢぇすと。土曜日。「ディズニーオンアイス 美女と魔獣」at代々木体育館。これに連れて行かれました。思ったより大量の人と、思ったよりこぢんまりしたリンクに驚くも、結構近めの席だったこともあって素直に楽しんでみたり。所々に入るペアフィギュアのリフトが圧巻でした。考えてみればこーゆーやつを生で見るのは初めてな訳で。狼さん達のリフト演技がすごかったです。一カ所、どうも頭を擦っているようにしか見えなかったところもあったんですが、大ジョブだったのかな~? 
 これを見る前、少し時間が早かったんで、明治神宮行ったんです。ワタシ実はまだ行ったことなかったんで。で、ここ明治天皇祀ってるんですね。ま、名前からしたら当然ですが。そう考えると、何で正月はあんなに人があふれるんだろう?なんて思ったりもするんですが、一般の人はそんなことには頓着するわきゃないですよね。で、ちょうど参拝したときに、祈祷最後の太鼓の音が脇から聞こえてきたんで、お宮参りでもいたのかと思ったら、少し後に宮司先頭に白無垢+紋付き袴+その他大勢の行列が。どうやら祝言(結婚式とはちょっと言いたくない雰囲気だよな)あげていたようです。よくよく見ればもう一組見えたりもするんで、そういう日だったのかも。いずれにしても、貴重なモノが見られました。
 帰りは夕食求めてさまよいましたが、まぁ、そーゆーこともあるさ。

 日曜日。天気次第で遠出してもよかったけど、前日の疲れか起きたのが遅かったので、それはなし。夕方からは兄の人が姪っ子連れてやってきたり。すっかり日本語を解するようになってきて、だんだんと人間らしく……コラコラ

 月曜日。借りた「ここはグリーンウッド」に浸る。いや、おもしろいですよ。でも、なんとなく「八神君の家庭の事情」を思い出すのはなぜだろう? ノリや絵柄も結構好きなんだけど、浸りきれなかったのは時系列がぐちゃぐちゃだったのと、最後がなんか中途半端だったこと。こういうどたばたコメディって言うのは、中心の幹がないとなかなか収束させにくいもんだけど、それの典型だった感じ。無理矢理決着つけたみたいで、その辺もったいなかった。しかし、これがそこまでディープなファンを獲得したというところはちょっとわからんな。CDにしたときのキャストの効果かねぇ。つか、緑川、どこ行った?(笑)

【今野緒雪】マリア様がみてる 涼風さつさつ



マリア様がみてる―涼風さつさつ表紙
amazon


「マリア様がみてる 涼風さつさつ」
著者:今野緒雪
イラスト:ひびき玲音 →Russian Blue
集英社コバルト文庫
 

 おそれていた事態。ここまで変に売れはじめた時点で十分に予測できた事態とはいえ、ここまで急激にくるとは……。最近の発刊ペースの上がり方に反比例するかのごとく中身が薄くなっておられます……。

 今回、続き物にするまでの話でないと思うのにオチてない。なかに話が二つある。なのにどっちも中途半端。これなら短編形式にした方がまだ収まりもいいのに。なにより、今回出てきた下級生、今まで名前出てきたことあったっけ? かなりな唐突感が。う~ん。祐麒がかっこよかったのはいいんだけど。

 今後、つぼみの妹騒動でどこまで引っ張るか。それ次第でそろそろ切り時かもしれないなぁ。変な連中に憑かれてしまったのと、それに天狗になってしまった出版社の失敗、ツーことにならないことを祈ります。

昔はふつうにら板今野スレは読めたんだが、最近正常な状態とはほど遠いしなぁ……ヤレヤレ。

2003年06月30日

禁断の……(笑 「三千世界の鴉を殺し」

 とある方面から入手した「三千世界の鴉を殺し」にすっかり嵌ってしまっていた週末、皆様いかがお過ごしだったでしょうか(違

 いやぁ、久々のヒットですわ。コレ。もともとキャラクターで引っ張っていく軽いノリと、軍隊コメディは好きな方だったのでツボに入った入った。本来の楽しみ方は中心の美人二人のカップリングなんだろうけど、ワタシ的には周辺のおねぇさまがたが魅力的すぎてたまりませんな。また、上官のおじさま方もいい性格していらっしゃる。作者が最初に明言しているとおりぎしぎしがなさそな雰囲気なので、比較的安心して読めます。6巻に朝チュンくさいのはありましたが……。って何書いてるんでしょう、ワタシは……。

 シチュエーションやノリがかなりの部分かぶっていると思われるワタシのお気に入り、秋山瑞人氏の「E・Gコンバット」は、これがおもしろいならたぶん大丈夫だと思われます。つか、これは是非是非読んで頂かなくてはなるまい。

 残念なのは、未だ完結ならず季刊誌連載なために刊行ペースが遅いことか。既刊の残りはすでに一冊。これも早晩読み終わってしまうだろうし、そして津守女史の既刊を漁りに書店orブコフに駆け込むことも想像に難くないしなぁ……。まったくやっかいなモノを……。いや、感謝してますよ。ホントに。

2003年05月21日

【瀧川武司】EME BLUE 2 パンドラミミック



EME BLUE〈2〉パンドラミミック表紙
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「EME BLUE 2 パンドラミミック」
著者:瀧川武司
イラスト:尾崎弘宣 →かたくりレモン
富士見ファンタジア文庫
 

 人に非ざりしモノと、人なれど異質なモノとの戦いの日々(?) ちょっとハードな戦闘含んだ現代魑魅魍魎アクション? よくわからんな……。ちょっと硬派なブルーシードでいいか。

 今回のネタは「箱」 ミミックには、昔何度も痛い目に遭わされました。ずいぶん懐かしい記憶ですが、ネタとしてはおもしろい題材かな。あとは、「箱」に見立てたモノの見方というのもおもしろかった。「たしかに」と妙に納得してみたり。

 着々と新しい人間が増えていくのに、その扱いが適度でよい感じ。かる~く読めるので結構好きなシリーズかも。個人的には茜ちゃんとワット君にはもちっと活躍していただきたいですが。あとはアオママ、かな(笑)

2003年05月08日

【笹本祐一】ARIEL19



ARIEL〈19〉表紙
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「ARIEL19」
著者:笹本祐一
イラスト:鈴木雅久
朝日ソノラマ文庫
 

 桃色頭脳本格稼働!

 こっちはそんな感じだろうか。このところずっと宇宙人側だったので、岸田博士が世界相手に引っかき回す、そのスタートラインと序盤がちょっと見えたので最後一気に大加速。エリアルも結構出番多かったし。個人的な引きの強い一冊でした。

 収束に向けて、このまま一気に行ってほしいもんです。今年はロケット打ち上げ、比較的少ないしね……。

【小川一水】強救戦艦メデューシン 下



強救戦艦メデューシン〈下〉表紙
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「強救戦艦メデューシン 下」
著者:小川一水 →小川遊水池
イラスト:こいでたく
朝日ソノラマ文庫
 

 小川印の職業シリーズ・看護婦編、待望の下巻です。

 よかったことはよかったんだけど、どうせ人間扱うなら、中途半端にライトを当てないで、もっと掘り下げてくれればよかったのに……、という感じ。キャラがおおい割にあまり個性が出ていなかった前巻の挽回をはかったのか、前半各キャラのエピソードが入ったりしたんだけど、う~ん……。設定に必然性が感じられなかったのがいたり、微妙な深さまで掘ってしまって、逆に変に薄っぺらくなってしまったのがいたり、裏目に出てしまったかも。ある程度割り切ってしまってもよかったのかな。

 でも、中身の濃さと、変なエネルギッシュさは小川印特有なわけで、怒濤の後半展開は特配に雰囲気が似ていたかも。この独特さが大好きです。

 さて、次は導きか?

【秋山 完】吹け、南の風3 開戦への序曲



吹け、南の風〈3〉開戦への序曲表紙
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「吹け、南の風3 開戦への序曲」
著者:秋山 完
イラスト:小菅久美 →mokemoke
朝日ソノラマ文庫
 

 フレン派vsジルーネ派 世紀の大決戦勃発!

 そんな感じの、鈍器な新刊でした、マル

 いやいや、なかなかに魅せてくれました。「讃えよ!我が姫!」と、ワタシは叫びません。どっちかと言えばフレン派です。どうにもジルーネ嬢は、ペリペティアと光響祭の得体の知れなさが引っかかってねぇ。しかし、今回はずっとなんだかかわいい雰囲気でしたが。イラストの小菅さんのイメージもあるのかも。

 ほんの少しちりばめられている現在への皮肉も、そんなにアクが強いわけでもなく、分厚い割に結構読みやすかったですね。お嬢はともかく、真っ黒な悪人がいなかったせいだろうか……。中頃のラブコメ風味がワタシの好みでした。

 「無垢な戦争」に入る前に、「葡萄園のフレン」が気になってしょうがないところですが、日曜作家さんですからのんびり待ちたいと思います。

2003年04月14日

【神野淳一】シルフィ・ナイト



シルフィ・ナイト表紙
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「シルフィ・ナイト」
著者:神野淳一
イラスト:成瀬裕司 →いすのホームページ
電撃文庫
 

 第二次大戦時のイギリスをイメージした世界での空戦モノ、だと思うんだな。妖精とか魔法とかおばけとかも出てくるけど。

 で、せっかくの細かい世界イメージが見え隠れするのに、それが伝わりきっていない何とも淡泊な文章がすご~くもったいない。一生懸命脳内補完して読むと、きれいな風景イメージが出てくるような舞台なので、そこら辺の描写がもうちょっとほしかった。なんか、状況が箇条書きみたいな印象。時間経過を一行で済ませるのが何回もあるとねぇ。あとは、何故に表紙イラストと本文挿絵が違う人なのか、えぇ、小一時間ほど問い詰めたい感じ。挿絵、あんまりです……。せっかくいろいろと戦闘機が出てきているのに、機体の描写、かけらもないんだものなぁ。

 中心カップルの葛藤や脇役のほどよい主張加減、世界観等々個人的には結構ツボなので、もうちょっと文章を濃くしてくれれば……。

2003年03月03日

【小川一水】導きの星III 災いの空



導きの星〈3〉災いの空表紙
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「導きの星III 災いの空」
著者:小川一水  →小川遊水池
イラスト:村田蓮爾  →PSEWEB
ハルキ文庫
 

 何度となく延期を繰り返した、期待の続刊。待った甲斐のあった厚さ、読み応えでした。

 今回は飛行機と核開発。急激に近代化が進みました。そして、舞台も急激に広がりました。司くんの過去も徐々に明らかになり、そして暗躍する何者かの意志。アルミティとの関係がどうなっていくのか。悪役ともいうべき企業のたくらみがどう転ぶのか。なによりもオセアノがどういう未来を築いていくのか。次で終わりということですが、ちっとも結末が読めないので非常に楽しみです。

 密かな今回の萌えポイントはバーニーなんでしょうか?

 しかし、この間の群青神殿といい、最近小川氏、濡れ場が多いですねぇ……。

2003年02月15日

【成田良悟】バッカーノ! The Rolling Bootlegs



バッカーノ!―The Rolling Bootlegs表紙
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「バッカーノ! The Rolling Bootlegs」
著者:成田良悟
イラスト:エナミカツミ →namihei's room
電撃文庫
 

 第九回電撃ゲーム小説大賞・金賞受賞作。

 禁酒法時代のアメリカ、ニューヨーク。その街で一つの酒が巻き起こしたスラップスティックコメディ(だとおもうんだな)。登場人物がみんな生き生きしていて、楽しそうに暴れ回っている雰囲気がいい。とくに道化担当の二人組がいいアクセントになっているし。人が多すぎる分、ちょっと裁き切れていない部分もあることはあるけど、それを差し引いてもこれはキャラの魅力が上回っているかな。まさにらんちき騒ぎと言った感じで終始していたので、本当に楽しめました。受賞作では一番のアタリかなぁ……。

【高野 和】七姫物語



七姫物語表紙
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「七姫物語」
著者:高野 和
イラスト:尾谷おさむ →元祖・おやじっ子
電撃文庫
 

 第九回電撃ゲーム小説大賞・金賞受賞作。
 和の雰囲気が漂う大陸の片隅で、なんだか怪しい二人組にお姫様に担ぎ出されてしまったのは、孤児の少女。周りの流れに翻弄される、お姫様を演じることになってしまった、一人の少女の視点で語られる日々の物語。
 方々の地名と、そのイラストのために雰囲気が仮想倭国と言った感じ。色合いも優しく綺麗な感じで、印象はいい。リングテイルとかそんな雰囲気を漂わせているかも。のだけれど、お姫様視点であるために、大局的な話が見えにくく、また盛り上がりに欠ける点も多々あるのは否めないかな。一つの決心を以て話が終わっているので、今後一大スペクタクルが繰り広げられるのかな……。そうならおもしろいんだけど。「薄い」という印象のお話でした。

2003年02月09日

【渡瀬草一郎】パラサイト・ムーンVI 迷宮の迷子達



パラサイトムーン〈6〉迷宮の迷子達表紙
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「パラサイト・ムーンVI 迷宮の迷子達」
著者:渡瀬草一郎 → 草一屋
イラスト:はぎやまさかげ → Fountain's Square
電撃文庫
 

 これで第二期シリーズも完結。まさにオールキャストです。都市シリーズに迫るほどの厚さでしたが、その分読み応えもばっちり。実験室の子供達、最後を飾ったネイは期待を裏切らず、いい味を出しておりました。最後は落ち着くところに綺麗に落ち着いて、よかったです。ほのぼの後日談なんかをもうちょっと見てみたいところではありますが。
 カーマイン卿のお話もなかなか……。残念ながら、パラサイト・ムーンはこれで一時中断と言うことですが、せっかく第二部に入って勢いがついてきたので、早い段階での新刊を期待します。

【壁井ユカコ】キーリ 死者たちは荒野に眠る



キーリ―死者たちは荒野に眠る表紙
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「キーリ 死者たちは荒野に眠る」
著者:壁井ユカコ パルプチャンネル
イラスト:田上俊介
電撃文庫
 

 第九回電撃ゲーム小説大賞・大賞受賞作。

 霊感少女と死ねない兵士としゃべるラジオのロードムービー調な連作短編ですか、ね。著者本人があとがきで言ってるように、荒野の惑星、スチームパンク、旧式ラジオ、錆びた機械と古いオイルなんてな雰囲気です。赤茶やグレーといった全体の暗めな色合いの中で、ちょこっと見られる温かい夕焼けの朱がちょっと印象的なお話。世界背景がなかなか深そうなのが気になります。このあともこの妙なトリオの旅は続くんでしょうか? 続いてくれるのを楽しみにしてます……。

2003年02月02日

【乙一】死にぞこないの青



死にぞこないの青表紙
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「死にぞこないの青」
著者:乙一 Web Otsuichi
幻冬舎文庫
 

 白より黒乙一のちょっとホラー? 年齢が近いせいもあって、小学生の時分を思い出してみたり。よくある話、だけど乙一風味がつくとこんな感じですか。前半、中盤、そして後半と、それぞれの雰囲気が違っていて読みやすいです。ホラー要素が全面というわけでもなく、ちょっとしたダークな小学生の日常、かな……。最後の落ちが綺麗なのはさすがです。

【三浦真奈美】邂逅のハレス海 アグラファ4



邂逅のハレス海―アグラファ〈4〉表紙
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「邂逅のハレス海 アグラファ4」
三浦真奈美/那知上陽子 → NAC画廊
中央公論新社Cノベルスファンタジア
 

 レッサーパンダvsツキノワグマ、ついに激突! ってな感じのアグラファ最新刊。今回は海戦でした。相も変わらず、色気というものが欠片もないですが、そんなことも気にならず、レッサーパンダ・ミオくんがだんだん逞しくなっていく様は、親が子を見る心境でしょうか(違 唯一と言っていいかもしれない色気担当予備軍のマウンテンゴリラ嬢が出てこなかったおかげで、全編通して戦いがあっても平和な感じ。彼女が出てくるとなんだか雰囲気が怪しくなってイヤなのです。

 互いの認識も終わって、これから一気に戦争ムード。その裏で何が動くのか、徐々に話も盛り上がってきたかなぁ、と言う感じ。

【貴子潤一郎】十二月のベロニカ



12月のベロニカ表紙
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「十二月のベロニカ」
著者:貴子潤一郎
イラスト:ともぞ MANAT
富士見ファンタジア文庫
 

 第十四回富士見ファンタジア長編小説大賞・大賞受賞作。

 典型的なファンタジーです。 

 ――国にとって重要な立場に立たされてしまった幼なじみと幼い頃に交わした約束を守るため、究極の選択を迫られた結果、その先に続く道は、悲劇か、はたまた……。

 「ものの見事にヤラれた!」というのが、中盤まで読んだときの感想。違和感なく読んでいたのに、そう来ましたか。うれしい驚きでした。中心におかれたキャラクタたちや、その背景、伏線も綺麗にまとまって、さすが大賞な作品。最近ねらいすぎのものが多いライトノベル業界において、こんな懐かしさを感じるものを読むと、心が洗われます。

 世界に広がりが見られるので、この先もちょっと楽しみかなぁ。

【西尾維新】クビキリサイクル 青色サヴァンと戯れ言遣い



クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い表紙
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「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯れ言遣い」
著者:西尾維新
イラスト:take → take+
講談社ノベルス
 

 2ちゃんねる・ライトノベル板での2002年下半期人気投票における評価を見て、とりあえず読んでみた。

 癖があるとは言われていたけれども、ここまでとは……。正直、ワタシには合いませんでした。確かに、結構皆さんいいキャラクタをしているのですけれども、これで中身が殺人ミステリというのがワタシには厳しいかなぁ。森博嗣なんかは結構読めたのに、これは最後の謎解きがすごく読みにくかった。ふつうライトノベルのように、ちょっとアウトロー気味などたばたコメディとかだったら気に入ったかもしれないけど、ミステリだったのが……。うぬ、残念。

2002年12月20日

【小川一水】強救戦艦メデューシン 上


「強救戦艦メデューシン 上」
著者:小川一水
イラスト:こいでたく
朝日ソノラマ文庫
bk1

 小川印の職業シリーズ。今回の職業は「白衣の天使・看護婦」さんです。防弾フードかぶって、装甲車でかけずり回る、偉くぱわふりゃーな看護婦さん達ですが。
 長期の及んでいる戦争の、国内における反戦の目線を惑わすために設立された衛生大隊。戦場の最前線まで強行し、負傷者の救助・治療にあたるという無茶な部隊の話。別に業界人ではないので、詳しい点には間違いもあるかもしれませんが、なんにしても前線で働くプロの姿の格好良さがあふれていることは確かだし、戦争におけるいわば裏方の仕事を、こんな取り上げ方したライトノベルも珍しいので、非常におもしろく読めちゃいました。
 なんとなく、世界のごく一部の動きが、戦争したくてうずうずしているように見える昨今、こんな事態が現実にはなってほしくないな、とも思いますが……。

【倉田英之】R.O.D 第7巻


「R.O.D 第7巻」
著者:倉田英之
イラスト:羽音たらく
集英社スーパーダッシュ文庫
bk1

 R.O.D待望の新刊。このところのシリアスアクション続きの息抜きということで、ねねね&読子のトラブルコンビの短編+1。基本に立ち返り、本読みの哀愁を誘う、自虐的な笑いを伴う短編でした。
 最初のプロローグ、今、巷で話題の某ファンタジーベストセラーに関する下りは思わず爆笑してしまった。いや、確かにそうだから。読子ほどの愛書狂ではないものの、それなりの活字中毒症を患っている(笑)人間にしてみれば、「そうそう」と頷いてしまうエピソードがちらほらと。やっぱりこういうタイプの違う「内輪受け」がコレの魅力かと。

【椎野美由貴】バイトでウィザード 流れよ光、と魔女は言った


「バイトでウィザード 流れよ光、と魔女は言った」
著者:椎野美由貴
イラスト:たけひと
角川スニーカー文庫
bk1

 今年の角川スニーカー文庫学園小説大賞・大賞受賞作。大地に埋められた昔の神様のかけらの力を使って、世の中の澱みをなくしていく「矯正術者」という職に就いた双子の兄妹が繰り広げるどたばた話。
 「矯正術者」という職業に関してはおもしろいと思う。影響範囲がご近所一帯というのも微妙なちんまり感があっておもしろい。中心の双子、かたっぽはとことんハイテンションな女の子。もう一方がとことんクールな男の子。キャラクター同士の掛け合いも軽めでテンポよく進むので読みやすい。んだけど、今ひとつ根幹のエピソードに関しての掘り下げ方が弱いかも。最後がすごく駆け足で薄っぺらく感じられてしまうのは残念。双子♂の方の背景ももうちょっとうまく使えると思うんだけど。
 突出した部分はないけれども、無難に読める一冊かなぁ。続刊刊行がすでに決まっているようなので、今後この「矯正術者」というものをどう扱っていくのか、それ次第かな。

【岩井恭平】消閑の挑戦者 パーフェクト・キング


「消閑の挑戦者 パーフェクト・キング」
著者:岩井恭平
イラスト:四季童子
角川スニーカー文庫
bk1

 今年の角川スニーカー文庫学園小説大賞・金賞受賞作。世界から天才と称えられる少年プログラマーが、日本の一つの都市を舞台に一つのゲームを主催した。その参加者はみなそれぞれの世界での天才達。奇妙なバトルロイヤルを主催する天才プログラマーの真の目的とわ? ってなかんじの話。
 登場人物がみんな天才で、なぜかみんな格闘センス抜群。そして人殺しオーケーのゲーム。主役は大阪弁の天然少女。ゲームのシステムや、謎かけなんかはよくできているし、おもしろいと思うんだけど、天才が安っぽくなってしまっているのと、この話の一番の土台となっているだろう「能力」が非常に唐突に現れる感じ、それからなんと言っても、周りの速度とあまりに乖離した主役の少女の天然等々のアンバランスさが何とも……。最後の落ちもよくわからないままだったし。う~ん、荒削りだなぁ。

【茅田砂胡】海賊王の帰還 暁の天使達3


「海賊王の帰還 暁の天使達3」
著者:茅田砂胡
イラスト:鈴木理華
中公新社Cノベルスファンタジア
bk1

 「看板に偽りあり」というのは言い過ぎか……。いずれにしても、題名から期待される人物が出るまで時間のかかることかかること。全体的にこのシリーズ、いままのでデルフィニア戦記および、スカーレットウィザードでちらりとにおわされてきた金・黒がらみのエピソードを、すべて克明に書き出すことだけを目的をしているように感じられますな。
 中心に据えられた話が未だ見えずの状態なので、どうも話に一貫性が見えない。お気に入りのキャラクタが出てくることを純粋に楽しむのが基本になるか。とはいえ、キングと女王がらみの周辺人物同窓会なんかはほほえましいのだけれども、今回、すこし金の言い分が……。今までの作品が楽しめたのは、ひとえに変な王様や変な海賊や変な女王がいたおかげであることを痛感した訳です。最後の最後に、次への期待がもてそうな展開になったので、次次第かなぁ……。

2002年12月10日

【長谷敏司】フリーダの世界 天になき星々の群れ


「フリーダの世界 天になき星々の群れ」
著者:長谷敏司
イラスト:CHOCO
角川スニーカー文庫
bk1

 前作「楽園」で独特の色合いの世界を描き出した長谷氏の待望の新作。今回の主役は《銀髪のコンピュータ》セルm……、いや華麗なる暗殺者・フリーダ嬢。
  内戦が絶えない故郷のゲリラの資金源として組織に身を置き、暗殺を請け負う少女・フリーダ。一流の暗殺者として仕事をこなしていた彼女が、新たな任務を受け身を置くことになったのはとある女子校。そして、下宿先のルームメイト・アリスに出会うことで彼女の中の何かが変わっていく……。
 今作も、舞台は未来世界なので仕掛けはSFですが、どちらかというと人間の内面にスポットを当てた人間ドラマかと。神様視点ですが、対象を3人に分けて、ザッピング形式で話を展開していくのが、慣れるまで少し読みにくいかもしれません。慣れてくると人の心理の動きなんかがよく出ていて読み応えがあります。人の描写もそうですが、何より文章から想起される映像が鮮やかなのが、この人の特徴じゃないかと思われます。
 どうやらコレはシリーズもののようですので、真っ白なアリスと生活を共にする、未だ自分の色を知らないフリーダがどのように色を付けていくのか、非常に興味深いところです。遅筆の気があるので、次はがんばって早めの刊行を熱望します。

2002年12月04日

【三浦真奈美】蒼穹のシディ


「蒼穹のシディ」
著者:三浦真奈美
イラスト:那智上陽子
中公新書Cノベルスファンタジア
bk1

 何となくずっと気になってはいた三浦真奈美氏の本に手を出してみた。新刊が出たばかりだったので平積みされていて目につくから。で、その新刊が出たばかりのシリーズを最初から読んでみたわけです。
 舞台設定としては、古代エジプト・ギリシャあたりのイメージかな。デルフィニア戦記なんかに似ている感じ。
 視点は二つ。もと身分ある家の次男であった海賊の親分と、強国の役人のおぼっちゃま。この二人の物語が交互に展開されていくのが基本。その間でなぞめいた男がうろうろと。一巻目なので主要人物の顔出しのような雰囲気が色濃いけど、おぼっちゃまの方の「レッサーパンダ」ことミオくんの成長物語は今後ワタシ好みに展開されていきそうな感じ。逆に海賊「ツキノワグマ」ことアインの方はちょっと……、かな。ま、好みの問題です。舞台設定は好きな方なので期待をしたい感じ。

【水野 良】ロードス島伝説5 至高神の聖女


「ロードス島伝説5 至高神の聖女」
著者:水野 良
イラスト:山田章博
角川スニーカー文庫
bk1

 正直、買ってページを開くまで、スパークくんの話の方(新・ロードス島戦記)だと思ってました。あとがき見たら、四年半ぶりとか言ってますから無理もないかと。当然、前巻がどう終わったかなど覚えているはずもなく。
 今回の主役は聖女なのか一人の女性なのか、微妙な感じのフラウス。この人のおかげで、普段色気に乏しいロードスの話が、珍しく華やかだったのは確かですが、全体として、ロードス島戦記の補足でしかないという感じは否めないところ。息も絶え絶えの中での完結という雰囲気がひしひしと。とりあえず、未完のまま放っておかれなかっただけよかったと言ったところでしょうか。

【伊都公平】第61魔法分隊3


「第61魔法分隊3」
著者:伊都公平
イラスト:水上カオリ
電撃文庫
bk1

 今回の主役は、シュナさん。どうやら巻ごとに主役を変えていく構成らしい。前巻の話の裏でなにが起きていたのかということが今回のメイン。
 なんですが、相変わらず読みにくいシリーズです。勢力が最低でも4つ? もっと多いかも。当然その分登場人物も多いのですが、それらのキャラが立っていないのが厳しい。主人公周りの人間達ですら、会話での区別が付かないと言うのが浸って読めない大きな原因。
 「凍土緑化計画」という大きな柱はしっかりしていて、その周りの出来事を進めていくという形は明確だから、キャラクターの立ち具合が何とかなるとおもしろくなると思うんだけどなぁ。次回以降、改善されることを期待します。

【高畑京一郎】Hyper Hybrid Organization 01-02 突破


「Hyper Hybrid Organization 01-02 突破」
著者:高畑京一郎
イラスト:相川 有
電撃文庫
bk1

 仮面ライダーチックなヒーローモノ?な様相の高畠氏の新刊。hpでの連載があるとはいえ、結構待たされました……。
 前巻が特撮ヒーローモノ全開でちょっと合わなかったんですが、今回は人間主体なのでしっかり読めました。恋人を殺された復讐を誓って、世間的には「悪」な組織に身を投じる事を決意した主人公君が、構成員になるべく連れて行かれた訓練所での生活。モノの見事に一冊を通じて一人も女性が登場せず、とことん男臭い話ではありましたが、さすがというか何というか、やっぱり人を書かせると惹かれますね。盛り上がりどころもないのに、なんか一気に読めてしまうのはこの人ならではかな。
 次からは事態がようやく中核に向けて動き始めるでしょうから、期待大です。遅筆なのが一番の懸念材料ではありますが……。

【渡瀬草一郎】パラサイト・ムーン5 水中庭園の魚


「パラサイト・ムーン5 水中庭園の魚」
著者:渡瀬草一郎
イラスト:はぎやまさかげ
電撃文庫
bk1

 独自の神話体型を背景にしたパラサイト・ムーンの新刊。「実験室の子供たち」が主役の一連の物語の中間点。今回また新しく実験室出身の子が二人(ウチ一人はすでに出てきていたけど)登場。
 細かくちりばめられた伏線や設定なんかを回収しつつ、ちりばめつつ、中心におかれた子供たちが状況の打破をはかる。大きな盛り上がりや派手さはないけれども、しっかり着実に進んでいく話は素直にのめり込んで読める。新刊が出るたびに、既刊を読み返すと新たな発見があるというのも楽しいモノで。
 次でこの話も最後。同窓会のように皆が集まってにこやかに「花見」が出来ることを願うばかりです。

【清水マリコ】嘘つきは妹にしておく


「嘘つきは妹にしておく」
著者:清水マリコ
イラスト:toi8
MJ文庫J
bk1

 ゲームノベライズを多く手がけた人のオリジナル。ちょっとしたミステリー仕立てで軽く読める一冊。
 それぞれのキャラクターの背景もちゃんとフォローされつつ、綺麗にまとまっているし、なにより読みやすい。読後感もさわやかだし。結局何だったんだろうってな根本的な謎は残るけど、そこはとっておきたい要素なのかな。イラストの淡い感じも合ってるし。大当たりというわけでもないけど、堅い一冊でした。

【高橋弥七郎】灼眼のシャナ


「灼眼のシャナ」
著者:高橋弥七郎
イラスト:いとうのいぢ
電撃文庫
bk1

 萌えと燃えの剣劇アクション小説?
 全体的に軽い雰囲気で、さくさくと話が進んでいくのは小気味よく。今までふれてこなかった他人の心を得て、自分が変わっていく様にとまどうシャナの様子はなかなかよい感じ。背景となる設定も伏線を張りすぎず、広がる余地も多そうで、今後期待がもてそう。欲を言えば、本当に「ライトな」小説だからもうすこし厚みがほしいところかな……。
 個人的一押しは、シャナより天然な母の方かな……。

2002年10月28日

【星野 亮】ザ・サードVI 異界の森の夢追い人(上)


「ザ・サードVI 異界の森の夢追い人(上)」
著者:星野 亮
イラスト:後藤なお
富士見ファンタジア文庫
bk1

 かなり久しぶりの長編新刊ですね。久々すぎたせいか、イラストの雰囲気ががらっと変わっております。ワタシ的には以前の方がよかったのですが、火乃香が年相応の感じになっているので、こんなものかな、と……。
 中身はといえば、上下巻ということもあって、いつもの「ほのちゃん」が薄いかな。上巻の主役は火乃香よりも浄眼機やフィラ・マリーク、そしてBBとSIZUKUなんではなかろうかと。それくらいこっちのサイドがいい雰囲気を醸し出していましたな。
 全体の筋として、「外」からのものが今まで以上に中心に動いているためそのあたり、少し気になるかも。下巻でうまくまとめられればいいけど、逆に広がってしまうとすこし薄っぺらい話になってしまいそうなのが怖いかな。
 何はなくとも元気なほのちゃんが一番の魅力な訳ですから、そのあたりの要素が薄かった今回はちょっと欲求不満気味。下巻でこのあたりが満たされることを期待しております。

【都築俊彦】まぶらほ メイドの巻


「まぶらほ メイドの巻」
著者:都築俊彦
イラスト:駒都え~じ
富士見ファンタジア文庫
bk1

 ルックスも成績もぱっとしない男の子の元に突然押しかけ女房が! あれよあれよとハーレム状態! ってまぁ、典型的なシチュエーションのシリーズな訳ですが。正直イラストにだまされて一冊買ってしまったのが運の尽き。ちょうどそのときイリヤづいていたのが悪いんだな。
 というわけで、今まではそうでもなかったんですが、今回の一冊は本当にがんばって読みました。途中、何度となく投げ出したくなりながら……。
 メイド軍とカメラ小僧軍のサバゲーを読まされても、ワタシにはおもしろくも何ともありませぬ。元々その気はあったとはいえ、巻が進むにつれ激しくなっていくヒロイン(のはず)の夕菜のジコチュー電波っぷりも鬱陶しく、ほかの二名はすっかり影薄く。というか、全体的にキャラが薄いからなんか、ねぇ。方々でいわれていますが、本当にイラストだけで保ってるシリーズの気がしてきた……。
 「天国に涙はいらない」につづいて、そろそろ見限る頃かもしれない……。

【神坂 一】クロスカディア3 風ワタル地ノ放浪者タチ


「クロスカディア3 風ワタル地ノ放浪者タチ」
著者:神坂 一
イラスト:谷口ヨシタカ
富士見ファンタジア文庫
bk1

 コンスタントに新刊を出すのはさすがな神坂さん。このシリーズも三冊目まできて徐々にテンションを上げつつある雰囲気。スレイヤーズやロストユニバースのように一冊完結という感じでもないので、今ひとつ盛り上がりに欠けるものの、この後どう持っていくのか楽しみであり、不安であり……。ヒロイン(?)であるところのメイがそろそろ化けそうなニュアンスを漂わせ、「行き着くところは残りの魔王様か?」というある種危機感を持ってみたり。
 神坂節であるところの軽快なノリつっこみのやりとりを、のんびりと楽しみつつ読んでいくのがいいかなぁ。全体的になんか「薄い」シリーズなんですけどね。

2002年10月18日

【村山由佳】晴れときどき猫背


「晴れときどき猫背」
著者:村山由佳
イラスト:
集英社
bk1

 村山由佳さんのカモガワ開拓日記の二冊目。今回は猫。ねこネコ猫。
 相も変わらず、なんとはなしに本能の赴くまま行き当たりばったりな生活をなさっているご様子。こんなの読んでると、ネコ飼いたくなってくるよなぁ。
 村山さんのエッセイは、日溜まりの暖かさを感じられるので、ワタシは好きですね。

【鷹見一幸】新・時空のクロスロード2 黄色い瞳の男の子


「新・時空のクロスロード2 黄色い瞳の男の子」
著者:鷹見一幸
イラスト:あんみつ草
電撃文庫
bk1

 これまた食べ物系だな……。前のシリーズは結構ワタシ的にお気に入りだったから、期待して読んだ前作「緑の指の女の子」が不発だったので、どきどきの二冊目でしたが、今回はよかったです。今回は「コロッケ」がネタ。なんと言っても食べ物な蘊蓄が、これまたおいしそうなのがウリだとワタシは思っているので、そのあたり具だくさんだったのはうれしい限り。
 時空のクロスに関しても、前回ほど流れがぶつぶつしていなくて綺麗にまとまっていたし、読みやすかった。それなりに理由付けもできてたし。これなら次が楽しみです。

【三枝零一】ウィザーズブレイン3 光使いの詩


「ウィザーズブレイン3 光使いの詩」
著者:三枝零一
イラスト:純 圭一
電撃文庫
bk1

 情報処理で格闘するという、何とも独特な設定の未来型SF(っていっていいのか?)の3冊目。前作からは少し間があいてしまいましたが。
 中心におくのは男の子と女の子の一組、というのはお約束のようです。この作品の肝であるところの情報処理ツール「I-ブレイン」もこなれてきていい感じ。ただ、今までにあった、盛り上げ場ともいえるガチンコ勝負が今ひとつで、最後のまとめ方のなんだか中途半端なフェードアウトだったのが欲求不満気味。姉とも恋人ともつかない微妙な立場におかれてしまったクレアの扱いがなぁ。結構かわいいとこがあるだけに、再登場期待。祐一君には今後余り出しゃばらないようにしていただきたいと。最強君は話を薄くしてしまうからなぁ……。

【桜庭一樹】竹田くんの恋人 ~ワールズエンド・フェアリーテイル~


「竹田くんの恋人 ~ワールズエンド・フェアリーテイル~」
著者:桜庭一樹
イラスト:みさくらなんこつ
角川スニーカー文庫
bk1

 プレイヤーに恋をしてしまったゲームキャラクターの妖精が、告白したい一心で現実世界にあらわれた、ってそれだけでかなりねらいすぎた感じの受けるあらすじと、その表紙イラストで手に取るのを躊躇していた一冊。著者が、あの「山田桜丸」というのもまぁ、一因ではあるのだけど。某所の評価は意外に高評価だったので読んでみることに。
 あらすじこそアレだが、恋愛がらみのほほえましいやりとりとか、「いいひと」の哀愁とか、プログラムされたモノだから…、なんて葛藤とか、軽いタッチの割にちゃんと書かれていてよい感じ。しかし、題名の竹田くんは実は主役じゃないというのがなんとも……(笑)
 どうやらオリジナルなら失敗はしなさそうなので、ほかの著作にも手を出してみようかな。なにせ、「LOST ONE」で痛い目にあったのは半分トラウマですからな。

【渡辺まさき】夕なぎの街 十八番街の迷い猫


「夕なぎの街 十八番街の迷い猫」
著者:渡辺まさき
イラスト:山田秀樹
富士見ファンタジア文庫
bk1

 富士見で久しぶりに新しい人に手を出してみた。新人賞の最終選考に残った作品に手を加えたモノ。
 舞台は明治大正の西洋風な日本独特な文化が形成されていた頃の街のイメージで、街の一角にある小さな和風居酒屋・夕凪。レトロ西洋な街と、和風の赤提灯、錬金術に魔術、そして自動人形と、なんともごった煮な雰囲気だけど、それが妙な感じでおもしろい。なんと言っても居酒屋だけに、出てくるつまみやまかないのおいしそうなことったらもう。表題にもある迷い猫さんもなかなかにいい味を出していてワタシの好み。
 多少展開の端々に唐突さと強引さがあるけど、それを差し引いても楽しいお話でした。

【渡辺まさき】夕なぎの街 心のかけら


「夕なぎの街 心のかけら」
著者:渡辺まさき
イラスト:山田秀樹
富士見ファンタジア文庫
bk1

 続いて二冊目。これは先月の新刊か。
 自動人形をネタにするときには必ず使われる「心」に関するお話。独特な雰囲気がきれいに出ていてよい感じ。短編との話のつながりも綺麗だし。なによりその個性的な人たちがおもしろく、かわいいですな。あとはやっぱり食べ物系かな。おなかの空いているときに読むのは厳禁かもしれません。

2002年09月29日

【神代 創】パートタイムプリンセス


「パートタイムプリンセス」
著者:神代 創
イラスト:山田秋太郎
MF文庫J
bk1

 ある日突然頭が痛くなったかと思うと、意識が、知らない世界の、知らない誰かの中にあった。周期的かどうなのか、何度となく意識が切り替わりながら、知らずに巻き込まれていくトラブル。割とよくあるシチュエーションだけど、テンポよくすすむ展開は、一気に走りきって読めてしまう爽快感。軽いノリだけど、それなりに抱えたモノもあるわけで、奇妙な出来事を通して、互いを信頼していくその過程も好印象。全体的にさわやかな一冊でした。
 視点が一方のみだったので、是非、もう一方も見てみたいな。個人的にはザッピング形式が希望だったけど、そこまでやってしまうと話が冗長になってしまうか。

【清水文化】気象精霊記6 お月見試験とホゴ活動


「気象精霊記6 お月見試験とホゴ活動」
著者:清水文化
イラスト:七瀬 葵
富士見ファンタジア文庫
bk1

 格闘気象宴会コメディーの6冊目(謎) 今回は、世界観説明に終始してしまったかもしれない一冊でした。でも、相変わらず宴会しているし、前巻からお仲間になったフェイミンさんも微妙な味を醸しているし、独特なシリーズですね。
 本編に挟まれる気象ネタの蘊蓄、大きなウリの一つですが、情けない希望を言えば、一枚挿絵に天気図を挟んでくれれば、より状況把握が確実にできて、理解も深まるんですが。ワタシの頭だけで構築するには能力不足です……。
 前回までで、一連の大きな話が一段落してしまったので、当分はのんびりムードかもしれませんが、おかしな火種はちょこちょこと散在しているようですので、今後もトラブルには事欠くことはなさそうですね。

【岩田洋季】灰色のアイリス2


「灰色のアイリス2」
著者:岩田洋季
イラスト:東都せいろ
電撃文庫
bk1

 人とは異なる強大な力を持った人間が歩む、裏と表の道。その選択に付随する葛藤。それぞれがそれぞれのトラウマを抱えて、だけどつかの間の平穏に身をゆだね……。
 1巻で大きく動いた自分の周囲を、2巻目でゆっくり今までのペースに戻すかのように話の進まない新刊。人として腐ってしまった兄妹に関しては、その設定に違和感あり。というよりも、安易にその理由でのみ人間関係を構築してしまうのは、どうでしょう。1巻目でもあったけど。非現実的な能力と、精神的な部分での話を進めているところに、突然に生々しいほどの理由を挙げられてしまうと、一気に安っぽい雰囲気になってしまう。そこだけが気にかかる。
 ふつうに厚みのある話になりそうなので、もうすこし様子見。

【岩本隆雄】鵺姫異聞


「鵺姫異聞」
著者:岩本隆雄
イラスト:弘司
朝日ソノラマ文庫
bk1

 「星虫」世界の一つ。川崎純が主役だった「鵺姫真話」の後日談、というか番外編というか。主人公がひょこっと出てきたので、人間関係を把握するのに苦労したり。これを読む前に前もって「星虫」と「鵺姫真話」は再読した方がよいのかも。
 プロジェクトに関わる話もそれなりに進めつつ、今回はラブストーリーなのかなぁ、基本は。時間をネタにしてしまったがために、絡めた人間関係がかなり複雑に。あいかわらず、少し環境がらみに関しては人を選ぶ描写がされていますが、それを差し引いても楽しんで読めるのがいいです。最後の落としどころは、ワタシはよいと思いますが、賛否あるようです。ちょっと最後の方は展開が急すぎですけどね。
 いずれにしても、これからは本格的に動き出したプロジェクト、そしてシティーを舞台にした話を熱望します。もう寝ないでね……。

2002年09月15日

【うえお久光】悪魔のミカタ5 グレイテストオリオン


「悪魔のミカタ5 グレイテストオリオン」
著者:うえお久光
イラスト:藤田 薫
電撃文庫
bk1

 脅威のペースで発刊されるミカタの新刊。今回のヒロインは真嶋先輩。その厚さは都市シリーズに匹敵。
 時折挟まれるあからさまな「萌え要素」とちょっと癖のある文章が微妙な感じだった既刊に比べ、この新刊はかなり読みやすくなってきました。まだたまに読みづらいところがあるけど。厚さの原因となったであろうボクシングの試合に関しては、ちょっと冗長すぎた感があるかな。でも、真嶋先輩の葛藤と、見せ場だったのかぼけだったのかわかりにくい「部長」の登場シーンなんかはおもしろかったし、次も読もうかなというところ。

【岩田洋季】灰色のアイリス


「灰色のアイリス」
著者:岩田洋季
イラスト:東都せいろ
電撃文庫
bk1

 脅威の新人とあおられている18歳のデビュー作。なんだけど、やっぱり「びみょー」ですよ。
 それなりに厚みのありそうな世界観と設定。背中にいろいろと抱えている上で構成された個性を持ったキャラクター。要素はちゃんとそろっているのに、全部が中途半端でもったいないことになっている感じ。あと、ヒロインその他の女性陣の背中に抱えているモノが安直すぎなのは、ちょっと……。無理にそういう方向で理由づける意味がそれほどあるのかな、と。また理由提示がけっこう唐突だったし。
 続刊がちゃんと出ているので、今後もっと読みやすくおもしろくなってくれることを期待したいかな。

2002年09月07日

【秋山瑞人】イリヤの空 UFOの夏 その3


「イリヤの空 UFOの夏 その3」
著者:秋山瑞人
イラスト:駒都えーじ
電撃文庫
bk1

 電撃hpにて連載されていたモノを加筆修正した3巻目。今回は書き下ろしなし。代わりにイラスト担当駒都氏によるキャララフが掲載されている。
 「無銭飲食列伝」 女の意地と意地のぶつかり合い。なににつけても不器用なイリヤと、なんだかんだと姉御肌の晶穂の世紀の一戦。ただの大食い競争が、なぜ秋山フィルターをかけるとここまで壮絶なモノになるのか、疑問ではあるけれども、それが楽しみなわけだから。惜しむらくは文中イラストがまるでないこと。とくにこのエピソードに関しては、ショッキングなイラストがhp本誌上にはあったため、かなり残念。そして、ヤローどもは馬鹿炸裂。それでも、「あぁ、そーだったなぁ」と懐古してしまう(苦笑)
 「水前寺応答せよ」 男子であり、男であり、そして漢である。そんな前後編。角が取れて、ようやくスムーズに流れそうになった日常の、その目の前に立ちはだかる巨大な山。そして事態は急降下。じわりじわりと包囲網が築かれていく息苦しさと、じれったさにもだえる最後。次に待ちかまえるのはハッピーエンドか、バッドエンドか……。ここで止めたらまるでEGFのよ……
 「ESP.の冬」 前水前寺テーマのエピソード。水前寺哲学の講義がなかなかおもしろい。こういう理屈、よくまぁ考えるなぁ、と。その底の知れない水前寺邦彦という男、どういう大人に成長するのか、全部見てみたい気がする。このころが一番平和だったのかもしれない、とそんなことも思ってしまう、直前のエピソードと明らかに異なる雰囲気が和ませてくれる。
 次から転がり落ちる展開が繰り広げられるであろうことは確かでしょう。そして、その後にはEGFが控えている、と思いたい……。

2002年09月04日

【竹岡葉月】東方ウィッチクラフト 人の望みの喜びを


「東方ウィッチクラフト 人の望みの喜びを」
著者:竹岡葉月
イラスト:飯田晴子
集英社コバルト文庫
bk1

 青春どたばたコメディー(とワタシは思っているのだけど)の最終巻。怒濤の展開で最後まで突っ走ります。何となく駆け足な感じで終わっちゃったけど、終わり方はきれいだったからよかったかな。周りにもっといじりやすそうなキャラが数人いたから、ここあたりをつっこんでもらえるともっと楽しいんだけど。後書きにあった裏テーマは、言われてみればなるほどなモノでした。
 後半に至るにつれてヒートアップしてくるパニ子の挙動には、ついつい笑いが出てしまう楽しいシリーズでした。

【鷹見一幸】でたまか アウトニア王国奮戦記3 純情可憐編


「でたまか アウトニア王国奮戦記3 純情可憐編」
著者:鷹見一幸
イラスト:Chiyoko
角川スニーカー
bk1

 何とか出たらしい3巻目。前回の結構行き詰まった展開からどう切り抜けるのか、その結果編。純情可憐なんてついているから、今回の主役は王女様かと思いきやそうでもなく、どうやらマリリン姉さんが主役らしい。ここに来て、怪しいAIが二匹ほど登場した割に、そこに言及することは少なく最後は尻切れトンボ気味に終演。某所では「打ち切り」なんて話もあるが、まさにそんな感じ。建前は「第一部完」てなことになってるけど、続きが出るのか、どうなのか。原作(?)には続きもあるようなので、ぜひ続刊に期待したい。細かい思想が云々という展開もなく、ただただスカッとする話なので、読んでいて素直に楽しめる。最近は変に思想的なモノも多いしな……。

【竹岡葉月】東方ウィッチクラフト 垣根の上の人


「東方ウィッチクラフト 垣根の上の人」
著者:竹岡葉月
イラスト:飯田晴子
集英社コバルト文庫
bk1

 隣の有名進学高校の男子生徒にあこがれる主人公であるところの女子中学生が、勢いで首をつっこんでしまったのは、「魔女」の世界?。
 べつに魔女といったところで、魔法でガンガン物事解決という話でもなく、典型的などたばたコメディーの気楽に楽しめるお話。ちょいと主役の男の子の性格がえげつないのが気になるけど、ヒロイン(なのか?)の方に天然が入っているので薄まってヨシ。二人の掛け合いが乗り切ってくるとかなり笑える雰囲気。飯田晴子氏のイラストもあっていると思われます。

【鷹見一幸】でたまか アウトニア王国再興録2 天地鳴動篇


「でたまか アウトニア王国再興録2 天地鳴動篇」
著者:鷹見一幸
イラスト:Chiyoko
角川スニーカー文庫
bk1

 物量vs策略の宇宙戦争話の新刊。前巻でやっと主役が表舞台に出てきて、一気に話が転がり出すかと思いきや、今回は、その他の皆様総動員な展開。たしかに魅力的なキャラクターたちが豊富なので、ほっぽっておくのももったいないか。いくつかのカップルが怪しい挙動を示し出すのが今回のメインかな。密かに今までただの馬鹿な貴族のボンボンだった皇帝陛下が、なんか陰謀を自ら張り巡らすようになってしまったのはなんだか、なぁ。あの馬鹿さ加減がよかったのに。
 「新・時空のクロスロード」よりおもしろく読めるので、次も期待です。

2002年08月30日

【倉田英之】R.O.D. READ OR DIE


「R.O.D. READ OR DIE」
著者:倉田英之
イラスト:羽音たらく
集英社スーパーダッシュ文庫
bk1

 Read or Die -読むか、それとも死ぬか- 活字中毒症状が末期を迎えると、もしかするとこういう事態も生じる、かねぇ? それほどまでに本が好きな主人公・読子リードマン(すごい名前だよ)が遭遇する事件だらけのアクションノベル(ほんとかよ)
 第一巻目ということで、中心二人の出会いがメインで、このシリーズ独特の、奇妙な能力大合戦もそんなに派手でもなく。何よりも活字中毒の気がある人ならば、一度や二度は頷いてしまうシーンがあるというのが一番のウリか。
 軽いタッチですらすら読める、気軽なシリーズ。まさに喫茶店にはいるときのお供にどうぞ的な一冊か。とりあえず、「一店買い」は活字中毒者の夢だと思います。ワタシもいっぺんやってみたいし。

2002年08月27日

【小川一水】ここほれONE-ONE!2


「ここほれONE-ONE!2」
著者:小川一水
イラスト:高木章次
集英社スーパーダッシュ文庫
" →bk1"

 小川印の職業シリーズ(勝手に命名) 土木工事に焦点を当てたシリーズの2作目。最終巻になるのかな? あまりといえばあまりの題名と、ちょいと濃い目のイラストのせいで何とはなしに敬遠しそうになるけど、そこはそれ、小川氏の取材に基づく妙にリアルな職業現場の一端をかいま見られるのはいつも通り。
 最後の方の怒濤の展開は、文中で科学的な論議がなされているので、時々ついていけなくなるけど、傍らに地図を置いてゆっくり読むと、新たな発見があるかも。
 文体に癖があるわけでもなく、読みやすく部分的にSFしているので、日頃よく見る土木屋さんの仕事を知るにはいい入り口かもしれません。働くおとこはかっくい~。

2002年08月25日

【米澤穂信】愚者のエンドロール


「愚者のエンドロール」
著者:米澤穂信
イラスト:高野音彦
角川スニーカー文庫
bk1

 スニーカーレーベルのミステリーもの。評価が高かった前作「氷菓」に続いて、今回もなかなか。
 どかんとした衝撃はなく、主役であるところのホータローが淡々としているので、全編そんな雰囲気。だけど、その淡々とした中にあるちょっとした起伏がおもしろい。また、中心の各キャラたちもなかなか和ませてくれる。今回は、前回よりミステリーミステリーしているけど、殺伐としていないのが好感。乙一に雰囲気にてるかなぁ。……そういえば、綾辻ネタが転がってたな。
 これからもホータロー君たちにはいろいろと活躍してもらえそうなのが期待大かな。

2002年07月30日

【小川一水】導きの星2 争いの地平


「導きの星2 争いの地平」
著者:小川一水
イラスト:村田蓮爾
ハルキ文庫
bk1

 文明育成シミュレーション(笑)の第2巻。レーベルがレーベルだけに、続刊の刊行には不安があったようですが、無事出版されたようです。
 今回のネタは宗教と戦争、かな。まさに中世ヨーロッパの雰囲気です。文明の進化をかなり駆け足でのぞいている感じですが、映画のようでおもしろいです。現場で奔走する主人公・司君を翻弄する、なんだか大きな意志がそろそろ影をちらつかせ始め、次巻以降話が結構動きそうです。極力早く次が読みたいですねぇ。

【伊達将範】DADDYFACE 冬海の人魚


「DADDYFACE 冬海の人魚」
著者:伊達将範
イラスト:西E田
電撃文庫
bk1

 「ぱぱ」3冊目。今回は全体的にトーンは暗め。泣き所も後半戦に一杯。パパの九頭竜も大活躍。じつは結構やばかったけど。シリーズの土台にある「来訪者」の正体もそろそろ明かされつつあったり。「ゆうちゃん」のエピソードを片づけてしまうとお話終わっちゃうんですけど、いい加減しゅーくんもかわいそうなので何とかしてあげたいかも。実は、今回の敵さん「サイレンの魔女」の曰くが今ひとつ理解できていないんですけどね。

【野村美月】 那須高原卓球場純情えれじ~


「 那須高原卓球場純情えれじ~ 」
著者:野村美月
イラスト:依澄れい
ファミ通文庫
bk1

 そのアンバランスな題名で物議を醸した「赤城山卓球場に歌声は響く」の続編。まさか出るとは思わなんだ。
 でも、前作ほどはじけてもおらず、なんだか中途半端な印象。濃ゆいキャラクターとトンデモ舞台設定がウリのバカ小説だったのに、今回は純愛要素をちょっと多めに入れてしまったがタメに、かき回すべき中心キャラクター達の影が今ひとつ薄く。はじけ方が足りなかったなー。もし続刊が出るのであれば、とにかくトンデモ設定のバカ小説で突っ走ってほしいモノです。謎のトロピカルフルーツは、その必要性が最後まで謎だったな……、そういえば。

【増子二郎】ポストガール


「ポストガール」
著者:増子二郎
イラスト:GASHIN
電撃文庫
bk1

 電撃で最近多い短編モノ。電撃HPから読者投票で表に出てきたモノですね。キノの世界でシンフォニアグリーンの雰囲気、という感じでしょうか。ちょっとしたバグを抱えた郵便配達ロボット・メルクリウスのシルキーが、配達先やその途中で遭遇する人たちとの交流話。ハートウォーミング系です。ワタシはこういうタイプが好みなので、この作品は気に入っています。短い話でもきれいにまとまっているし、読みやすい。後はネタがどこまで続くかの勝負、でしょうか。

【笹本祐一】ARIEL 17


「ARIEL 17」
著者:笹本祐一
イラスト:鈴木雅久
朝日ソノラマ文庫
bk1

 物語もかなり収束に向かいつつある「ARIEL」の最新刊。
 最近影の薄かった岸田博士が今回大活躍。最初の威厳はどこへやら、オルクス艦長はますます周りに振り回され。もちっと劇的に進むかと思われた地球と宇宙人のファーストコンタクトも、博士のノリに巻き込まれ、イー感じのドタバタ劇に。久しぶりにSFらしい技術論も結構おもしろく、作者曰く「話が進まない」今回の一番の見物がこのあたりではないかと。最後に出てきた無敵超人と、今回ちょっと出だった前回前々回の主役・由貴嬢の動向が気になるところ。終わりも読めないし。はよー次が読みたいのー。

【清水文化】海底火山とラッコ温泉 気象精霊記4


「海底火山とラッコ温泉 気象精霊記4」
著者:清水文化
イラスト:七瀬 葵
富士見ファンタジア文庫
bk1

 どたばた宴会&お天気コメディ(謎)の4冊目。大量に出てくる似たような精霊さん達の識別に、やっと慣れてきました。今回のネタは、火山と地震。今までに増してマニアックになってきました。
 前回から本格的に動き始めた敵さんの目的が、「噴火の冬」。氷河期にしちまおー、ということらしいです。そこに至るまでの過程が全編通して、結構トーン抑えめで展開されてきます。今回、宴会が少ないのでそうそう流れがとぎれることもなく、いいペースで最後まで行ったんではないかと。見所が少ないとも言いますが(^^; 唯一の見所、温泉シーンも、なんだかキナ臭い話になってしまうし……。
 これで話が完結していないみたいだし、とらわれの身になって昏倒しているあの人の今後の動向も気になるし、主役周辺の伏線もそろそろ気になるし、という感じで、次の巻がかなり気になります。
 作者のページ、結構読みどころ豊富です。もう一度全部読み直してみようかなー、という気になる、そんなことやあんなことがたくさん。一見の価値ありです。

【杉原智則】熱砂のレクイエム 鉄騎兵、跳ぶ!


「熱砂のレクイエム 鉄騎兵、跳ぶ!」
著者:杉原智則
イラスト:平井久司
電撃文庫
bk1

 何となく表紙買いした一冊。川上さんの都市シリーズより分厚い一冊。とりあえず、一日かけて読んでみる。結論。はずれ。

 読み始めて10ページ程度で眠くなったライトノベルスの文庫は初めてでした。明確な理由はわかりませんが、とにかく「浸れない」。そもそも、世界観も、状況もどうも頭に入らない。というか、説明あったかなー? いきなりに出てくる人間の数が多い割に、それらの動きが裁き切れていないという感じ。本は厚いけど、中身はひょっとすると薄いのかも。とにかく、キャラクターが立ってないのがすべてなんでしょう。キーとなる兵器、MRVも今ひとつインパクトに欠けるし。うぬ、否定的なものしか出てこない。

【伊達将範】COOLDOWN


「COOLDOWN」
著者:伊達将範
イラスト:緒方 剛志
電撃文庫
bk1

 走り出したら止まらない、ノンストップアクションノベルと銘打たれたこの作品。一人の転校生が学校にきたことから始まる事件。たまたま離れていた、ちょっとアウトロー気味な男子一名が成り行きで事件解決に奔走する、というか戦う戦う、そんな話。でもなー、ノンストップというほどでも……。事件背景の説明もほとんど皆無だし、底の浅い印象受けました。なんだろ? 執筆逆順に読んでいったせいでしょうか。「DADDY FACE」はそんなこと、感じないんですけど。ヒロインの女の子も、何となく中途半端だし。もうちょっと人間ドラマが中にほしいのかも。アクション一辺倒だから。本文最後の方にネタとしても出てきますが、洋画の「スピード」に雰囲気近いかも。でも、やっぱり中途半端。うぬぅ。

【七尾あきら】風姫 天を継ぐ者


「風姫 天を継ぐ者」
著者:七尾あきら
イラスト:川島旅順
ファミ通文庫
bk1

 以前、角川スニーカーで本を書いていた妖怪好きな七尾さんの新刊。「物の怪」好きなワタシにはちょうど良い物の怪モノでした。もともとしっかりしたお話を書く人なんで、浸って読んでしまいました。個人的好みで言えば、もうちっとけなげな物の怪がたくさんいるとうれしいんですけど。でも、きれいにまとまっているし、キャラクターも魅力的。難点は人が死にすぎるところか。今後、妖狐がいい緩衝剤になってくれるといいんですけど……。続き物としては、妖怪退治なお仕事をこなす毎日になっていくんでしょうか。とりあえず、次も期待です。

【伊達将範】DADDYFACE


「DADDYFACE」
著者:伊達将範
イラスト:西E田
電撃文庫
bk1

 通称「パパ」。帯文句であるところの「九歳違いの親娘」って設定だけはもちっとなんとかならんかとも思いますが、キャラクター達が皆魅力的でいいかも。本文に出てくるアイテム類もいい感じでマニアックだし。最初にF-22ラプターが出てきたときは、「おぉっ」てな感じでしたが、そのあとにランボルギーニカウンタックが出てきたときは苦笑するばかり。その後にも出てくるわ出てくるわ。このあたりは笹本さんの「ARIAL」に通じるところがあるかと。個人的には大好きですけどね。文章の勢いは「E・G」秋山さんに近い物が。忙しいときには読めない部類の本です(笑) しかし、なにより驚くのはその情報量。宝探しというだけに、神話・伝説その他諸々がいろいろと出てくるんですが、その情報量が圧倒的。娯楽小説のはずなのに読むと勉強になります。笹本・秋山属性と考えられる方は結構つぼにはまるんじゃないかと。これは久々のヒット作ですな。書店で目に入ったのは担当ミネさんの陰謀か!?(爆)

【伊東京一】BIOME 深緑の魔女


「BIOME 深緑の魔女」
著者:伊東京一
イラスト:OKAMA
ファミ通文庫
bk1

 「第2回ファミ通エンタテインメント大賞」入賞作。
 地表の96%が樹海に覆われている惑星の物語。人間はその樹海のごく一部を切り開いて、樹海にすむ虫や獣たちにおびえながら生活している。主人公は樹海を旅し、虫達の害を取り除く「フォレストセイバー」の女の子。とまあ、雰囲気だけなら「風の谷のナウシカ」丸出しだけど、全編にわたって繰り広げられる生態系ピラミッドの展開は見事。一つ一つ扉を開けるように展開していく生態系の、その驚異。きっかけはちょっとした生態系の乱れ。それが大きな災厄の始まりとなる。生態系を知るものの知恵比べの緊迫感。迫力です。
 ちょろりちょろりと伏線になりそうなキーワードも出てきて、うまくすればシリーズ化も可能なのかな。今までに読んだことのないタイプの話なので、楽しめて読めました。ファミ通文庫でなければもっと話題になっただろうに。
 自然を自分のいいように手玉にとるのではなく、自然のシステムを解析して、それに則って制御をする。ちょっと前まではふつうにやられてきたことなのに、今の地球上で行われていることは……? なんてことも考えさせられてしまうアタリの一冊。

【岩本隆雄】鵺姫真話


「鵺姫真話」
著者:岩本隆雄
イラスト:弘司
朝日ソノラマ文庫
bk1

 「星虫」の4年後くらいが舞台なんでしょうか? プロジェクトもぼちぼち進み出した頃の話。病気が原因で望んだものから見放されてしまった主人公。惨めな気持ちで実家へ帰ってきたものの、ふとしたことから過去へと飛ばされてしまう、とまぁ、タイムトラベルものです。この手の話は、読んでいても頭がこんがりやすいのですが、これも最後の方はまだ理解し切れていません(^^; 時間軸が絡み合っちゃって……。作者が「神様」の話というだけに、ここいらがキーワードチックなんですが、特殊技能を持った人間に対する尊敬とかは、「神」に対するものに近く、一歩間違うと畏怖に発展しやすいという、なんかまた考えさせられる話でした。微妙に絡んだ恋愛事情もいい感じで味を出してます。次にでるという「イーシャの舟」にも絡んだ話らしいので、期待しましょう。

【小川一水】導きの星1 目覚めの大地


「導きの星1 目覚めの大地」
著者:小川一水
イラスト:村田蓮爾
ハルキ文庫
bk1

 かっこいいその道のプロを書くことの多い小川氏の純粋SF。
 銀河にあまねく広がった人類が遭遇した外宇宙知的文明体・ETI。その文明の進化を見守り、保護し、時には導いていく、文明シムシティーなお話。二足歩行もできるリス系の知的生命体の文明を、新米の監視人であるところの主人公が試行錯誤をしながら導いていく。地球の歴史をなぞりたくはないのに、結果としてなぞっていってしまう。そのあたり、背景説明にちょこちょこと皮肉も入ったりはするけど、結構勉強にもなるし、文明固有の体系も良くできていて読み応え十分。最後までたどり着くのは時間がかかりそうだけど、最後までおつきあいしたいシリーズかも。ちょこっと含まれる恋愛模様の行く末も気にはなりますが……。

【茅田砂胡】神々の憂鬱 暁の天使達2


「神々の憂鬱 暁の天使達2」
著者:茅田砂胡
イラスト:鈴木理華
C-NOVELSファンタジア
bk1

 さてさて、問題のこっぱづかしい表紙の茅田新シリーズ2冊目です。どーやら茅田女史は紅魔女とデル戦を完全にくっつける方向で進めるようです。もしかすると拳銃娘もいっしょくた?
 状況説明が多く、キャラクターの動きが少なかった今回は、ちょっと派手さに欠けるかもしれません。また今後、どういう方向で話を持っていくのか、黒ネズミにまつわる『神様』の話に決着をつけるお話になるのか、未だその全体像はちっともつかめない、微妙な感じです。順調にいけば次は11月らしいので、次で話が進むことを願います。ちなみに今回から挿絵変わりました。黒ネズミが違和感ばりばりです。デル戦の印象が強すぎるんですよねぇ……。

【笹本祐一】ARIEL18


「ARIEL18」
著者:笹本祐一
イラスト:鈴木雅久
朝日ソノラマ文庫
bk1

 案の定というか、いつものことというか、結局3ヶ月近く延期を繰り返した末の刊行。桃色頭脳・岸田博士が本格的に活動を開始して、展開は加速しつつも動きだし。だけど、どう決着を持っていくのか、残り話数も少なくなっていくこれからを期待したいところだけど、いつまでかかるやら……。今年はロケットの打ち上げも多いしねぇ。
 艦長&司令の今後の活躍を期待しているんですが、経理部長とチィねえにもって行かれるような気もするな。

【伊達将範】DADDYFACE 世界樹の舟


「DADDYFACE 世界樹の舟」
著者:伊達将範
イラスト:西E田
電撃文庫
bk1

 「ぱぱ」の2冊目。ますます勢いづく9歳違いの父娘(+母子?)。今回の舞台はドイツ。ネタは北欧神話、世界樹。作中「フレイヤ異伝」の展開はびっくり。このあたりの創造性はさすがです。宝探しな父娘に、知らずに関わる樫緒くんが今回大活躍。少しずつパパにもうち解けてきていい感じ。はずさずに持ってくる「しゅーくん」エピソードでもしっかりと泣かせてくれますし。結構分厚いんですけど浸れちゃうんで、あっさり読めちゃうシリーズです。

【笹本祐一】ブループラネット 星のパイロット4


「ブループラネット 星のパイロット4」
著者:笹本祐一
イラスト:鈴木雅久
朝日ソノラマ文庫
bk1

 相変わらずぶちかましてくれます、笹本さんは。すっかりハードレイクに住み着いたスウが持ち込んだ情報から、世界中があっと驚く事実が……。
 核融合とか、人工衛星やってる先輩の話を聞くと、どうも先端技術の先行きは暗く感じられるのですけど、こういう話があると、やっぱり希望というか夢というかをなくしたら終わりだな、とそう思えるわけです。ただ、本編に関していえば、もうちっと宇宙を舞台にしてほしいかな、と。前巻とともに主な舞台が地上でしたし。しかも最近、若い二人の活躍が……。これに関してはいいんですけど、美紀さんがかすんじゃって(笑) 今回一番の収穫は、ミス・モレタニアのう・な・じ♪(爆) まぁ、それは冗談にしても、やっぱり笹本さんの作品読むと少し元気になりますね。次はARIALですかね。これもたのしみたのしみ。

2002年07月14日

【今野緒雪】マリア様がみてる パラソルさして


「マリア様がみてる パラソルさして」
著者:今野緒雪
イラスト:ひびき玲音
集英社コバルト文庫
bk1

 リリアン女学園なる女子校で繰り広げられる淡く青い人間ドラマ、ってやつですか。ソフト百合系なんて言われ方もしますが。方々で話題になっていたので、手を出してみました。その最新刊。
 前作、「レイニーブルー」がまさにブルーな終わり方をしていたので、その決着をどうつけるのか、それが注目でした。表紙を見れば、結末はわかるんですけど、その過程が重要なわけで。結論から言えば、きれいだけど物足りない。そんな感じ。登場人物が急に増えたこともあるのかもしれないけど、もうちょっと衝撃的な展開があってもいいと。白薔薇ファミリーが劇的すぎたせいでしょうかね。新入り乃梨子嬢があまり出番がなかったのも不満の一つかな。でも、丸く収まったから良かった良かった。
 コレで次は、祐巳&由乃の妹取りかなぁ?

2002年05月04日

【乙一】暗いところで待ち合わせ


「暗いところで待ち合わせ」
著者:乙一
イラスト:
幻冬社文庫
bk1

 視力をなくし、一人で暮らす女性の家に、こっそり隠れる殺人事件の犯人として追われる男。互いに世間とうまく渡り合えない者同士の、奇妙な同棲生活。
 ホラー風味の「黒・乙一」と切なさ炸裂(笑)「白・乙一」 これはワタシの好きな「白」風味。あいもかわらず、何ともいえない薄く、しっとりとした色合いの話を書く人ですね。派手さはないけど、読後感がいいので何度も読み返してしまう。ミステリー要素も多少はあるけど、そんなことは関係なく、中心二人のおっかなびっくりな振る舞いがほほえましくもあり、また自分も省みる部分はあるかな、と。
 「幸せは子猫のかたち」とともに、好きな作品の一つになりました。

【秋山 完】吹け、南の風2 星界の襲撃者


「吹け、南の風2 星界の襲撃者」
著者:秋山 完
イラスト:小菅久美
朝日ソノラマ文庫
bk1

 日曜作家・秋山完氏にしては間をあけない新刊刊行(笑) そして今回もフレンは出てこない罠。そのかわりにちょっとやさぐれ気味なキャラクター登場。一冊ごとに中心におく人物が変わり、最終的に怒濤の勢いで展開が進んでいくと思われるので、後2冊くらいは新キャラ紹介のようになるのかも。ちょろちょろとキーワードも散在し、巻末補遺に航宙船の説明ががっつり載っていたりと結構あとで読み直す必要ありかも。

2002年04月11日

【うえお久光】悪魔のミカタ2 インヴィジブルエア


「悪魔のミカタ2 インヴィジブルエア」
著者:うえお久光
イラスト:藤田 香
電撃文庫
bk1

 前回のゲーム小説大賞銀賞受賞作の早速の続刊。
 前作、結構良くできていて、期待もしていたのですが、今回は自分的にちょっと……。一言で言えば「やりすぎ」という感想でしょうか。
 まず、文中に傍点が多すぎです。ミステリーを強調していて、それを醸し出したかったのかもしれませんが、折角テンポのいい文章がかえって読みにくくなっていて逆効果。第一、傍点だって、多用したら意味ないです。
 つぎに、個性的すぎるキャラたち。とくに主役およびその周辺の女子の扱い。同様な雰囲気で、やはり少し食傷気味な「天国に涙はいらない」は、まだギャグにしているので許容範囲内ですが、ココまでやってしまうとさすがに中高生向けと言うのはまずいかと。
 他の部分はうまいと思うのです。熱意のベクトルが変な方向かな。
 コレを読んで、やはり最近の電撃文庫の方向性には少し疑問を持たざるを得ないかな……。よりにもよって微妙な時期に……。

2002年04月08日

【茅田砂胡】暁の天使たち


「暁の天使たち」
著者:茅田砂胡
イラスト:高梨かりた
中央公論新社Cノベルスファンタジア
bk1

 茅田さんの新シリーズ。ってことになっているけど、デル戦、紅魔女を既読していないとハッキリ言って全然わからない出来。そこここで作者願望丸出しの同人誌のような作品と評されているが、その通りか。
 今までは、王様&愉快な側近たち(デル戦)や女王&キングその他(紅魔女)の様な懐の深い人たちが周りにいてくれたおかげで、中心の金&黒のえぐいところがうまく中和されていた。しかし、今回、その役どころにあるキャラが不在なため、エグさ炸裂。このあたり、次巻以降改善されることを願うが、いまの配置から言って厳しいかもな。
 某所では、第二の温帯(栗本薫)化説も浮上。危険な香りが漂う興味深い新シリーズのようです。

【鷹見一幸】新・時空のクロス・ロード 緑の指の女の子


「新・時空のクロス・ロード 緑の指の女の子」
著者:鷹見一幸
イラスト:あんみつ草
電撃文庫
bk1

 結構お気に入りだったシリーズの新作。設定の変わった、しかし基本は似ているモノ。なんだけど、今回はすこし微妙。
 パラレルワールド系のお話で、今までは本人がそこに入り込むことで、その世界の方向を変えてしまうという話だったのだけど、今回は、そのあたりの影響があまり明確でなく、滅亡に瀕しているというその世界観の描写が今ひとつ不足気味。主人公周りのエピソード(前置き)が幾分冗長だったせいかも。全体的に少しテンポが悪かった感じ。
 これも前回同様3作一連のようなので、次に期待したいところ。

【伊都工平】第61魔法分隊2


「第61魔法分隊2」
著者:伊都工平
イラスト:水上カオリ
電撃文庫
bk1

 新人さん(といっても2代前か)の続編新刊。なんだけど、前回の人たちは一人しか出てなくて、いきなりの外伝だそうです。
 前作から少し間が空いてしまったので、すこし世界観や各名称をわすれていてわかりにくかったですが、かなりテンポが良くなっていて、読みやすくなっています。今回中心のキャラクターたちもよく動いていて、個性的。ただ、黒幕近辺の人物相関や思惑が少し混乱気味かな。惜しむらくは、後半に妙に誤植が目立ったこと。せっかくのテンポが台無しでした。もう少し校正しっかりしてください。ともあれ、続刊以降かなり期待がもてそうな雰囲気です。
 未だによくわからないのは、魔法杖の構成。本文挿絵にまともに描かれているモノがないので、一回どっかで図説してもらいたいモンです。

2002年03月10日

【志村一矢】月と貴女に花束を6 聖夜終焉


「月と貴女に花束を6 聖夜終焉」
著者:志村一矢
イラスト:椎名 優
電撃文庫
bk1

 電撃レーベルでは大人気なシリーズの最終巻。某所ではベタだ、地雷だと歪んだ愛し方をされている作品ですが、その勢い衰えず。全体のイメージとしては、「ジャンプに代表される少年マンガ」的進行です。強さのインフレ、激しい激しい。死人が蘇るという反則が何度となく出てきてしまうのは、多少興ざめでしょうか。
 前半は、前巻につづいてのラスボス戦、第2ステージ。映像にするとかなり派手で迫力のある場面が続くんですが、いかんせん描写力不足は否めず、脳内補完に頼る部分が多いのは残念。最後の方は主人公とともに作者の方も力つきた感が……。エピローグに関しては、落ち着くところに落ち着いたかな、と。そうするしかないような終わり方でした。最初の頃の甘あまな雰囲気が、最後に近づくにつれて薄れてしまったのは、しょうがないのでしょう。
 いろんな意味で、ストレートなシリーズでした。

【野村美月】赤城山卓球場に歌声は響く


「赤城山卓球場に歌声は響く」
著者:野村美月
イラスト:依澄れい
ファミ通文庫
bk1

 ファミ通文庫エンタメ大賞・第3回最優秀賞受賞作。「ドナドナ」と「卓球」と「世界征服」と「巫女」のお話。そもそも題名からしてよくわからない。読んでみても、最初の方はただの学園コメディーにしか見えない。しかし、中盤以降、物語は驚天動地の展開を見せる。
 正直、「なぜ?」という感想しか抱けない、そのエッセンスの数々。確信犯なのか、ただの天然なのか、理解に苦しむその展開はしかし、なぜか綺麗にまとまっていて、オチもしっかり。ただただ脊髄反射のみで楽しむ一冊か。いや、おもしろかったです。

2002年02月22日

【うえお久光】悪魔のミカタ 魔法のカメラ


「悪魔のミカタ 魔法のカメラ」
著者:うえお久光
イラスト:藤田 香
電撃文庫
bk1

 同じく第八回電撃ゲーム小説大賞・銀賞受賞作。
 ミステリーにしようと思って、途中で方針転換して、オカルトコメディーとも何ともつかなくなってしまった微妙な話。中心の「みーくる」の皆様たちのアウトローぶりは結構大好きだけど、ちょっと裁き切れていないのが残念。人の配置が多すぎたかな? 特に双子と部長。これもやっぱり部分部分に言葉不足や裁ききれない伏線なんかが残っているのが気になる。ドラえもんの道具系のネタを今後うまく使えるかどうかが、もう出版の決まっている続刊の行方を左右するか。挿絵の雰囲気は好き。今後に期待、かな。

【有沢まみず】インフィニティ・ゼロ 冬~White snow


「インフィニティ・ゼロ 冬~White snow」
著者:有沢まみず
イラスト:にのみやはじめ
電撃文庫
bk1

 第八回電撃ゲーム小説大賞・銀賞受賞作。
 話の大筋で、俗に言う「鍵系」を彷彿とさせるけど、うまくまとまってると思う。ただ、ヒロインの電波ぶりがかなり激しすぎるのは、読む人を選ぶ要素となってしまうかも。所々言葉不足、説明不足の所があってよくわからないまますぎてしまう部分があるか。エピローグは綺麗なんだけど、そこに至る空白部分がちょっといい加減すぎる気もする。アラが目立つけど、これから何とかなってくれそうな気もする。あと、挿絵がいくら何でもダメダメすぎ。もうちっとまともな絵師をつけてあげてください。編集サイドさん。最近電撃はこういう挿絵で損をするパターンが多すぎる……。

2002年02月17日

【茅田砂胡】レディガンナーの大追跡(下)


「レディガンナーの大追跡(下)」
著者:茅田砂胡
イラスト:草河遊也
角川スニーカー
bk1

 というわけで、キャサリン嬢大暴れ……でもなかった下巻。
 それなりに暴れてくれたし、いつもの四人組もそれなりに活躍したんだけど、どうも脇役で主張の激しい連中が大挙してやってきたせいで、中心がかすんじゃったかな? ニーナはいい味出してましたけど。舞台背景はかなり複雑だけど、中心が中心だけに、今後展開を広げるのが難しいかも。人種問題の扱いももちっと薄目にすると冒険活劇で楽しくなるのかな。いまひとつ乗り切れなかったのはちょっと残念。

【渡瀬草一郎】陰陽ノ京 巻の二


「陰陽ノ京 巻の二」
著者:渡瀬草一郎
イラスト:酒乃 渉
電撃文庫
bk1

 待望の続刊。今回は挿絵と相まって、一巻目よりもぐっと雰囲気が良くなっています。キャラクターたちもしっかりしてきた感じ。今回は脇の時継、吉平、貴年がものすごくいいところを持っていきます。吉平はたまに発言がコワいですけどね。清明、道満のオヤジーズも捨てがたいところではあります。「パラサイトムーン」の色鮮やかな方もいいんですが、こういう静かな物の方が、いい感じです。続刊も決まっているようなので楽しみですね。

【円山夢久】リビスの翼


「リビスの翼」
著者:円山夢久
イラスト:絵楽ナオキ
電撃文庫
bk1

 リングテイルからずいぶんあいての新刊。相変わらずしっかりした物語です。読後感もすっきりしてるし、綺麗だし。読んだ後、思い浮かんだのが、なぜか「グランディア」。翼で連想しただけかな。ページ数の割に読むのに時間がかかったのはそれだけ密度が濃いと言うことなんでしょう。最近色物ばかり読んでいたので、たまのこういう純粋なファンタジーを読むとホッとするかも。これからもこういう綺麗な物を読ませてもらいたいです。イラストも宮崎駿風味でいい感じです。

2002年01月30日

【村山由佳】すべての雲は銀の…


「すべての雲は銀の…」
著者:村山由佳
イラスト:
講談社
bk1

 「あーもー、なんでこうこの人はこういうのを書くかなー!」というのが読後最初の感想。
 恋愛小説と分けられるモノでもないと思われる、村山女史のハードカバー。この人の世界は心に痛いのだけど奥底まで浸みる、そんな感じを受ける。……うーん、うまく表せないのがもどかしい。とにかく、「おいしいコーヒー」シリーズみたいにほんわかほんわかしているのもいいけど、やっぱりこういうのだよなぁ、と思う。よくわからないですね。ちょっとでも気になったら、とにかく一冊なんか読んでみてください。「天使の卵」とか「青のフェルマータ」とか文庫であるし。
 作中の雰囲気、というか農場。どう考えても村山女史の鴨川農園を彷彿とさせて、ここでは笑みがこぼれたり。そのあたりは海風通信の続報を楽しみに待ちましょう。

【村山由佳】おいしいコーヒーの入れ方5 緑の午後


「おいしいコーヒーの入れ方5 緑の午後」
著者:村山由佳
イラスト:志田正重
集英社ジャンプJブックス
bk1

 「おいしいコーヒーの入れ方」シリーズ(村山由佳)待望の新刊です。こっぱずかしくなりながらもついつい読んでしまう、少女漫画のような恋愛小説(笑) 表紙裏なんかのあらすじを読むと、すさまじい大波乱を予測させるような感じだったのですが、本編はそこまで激しくもなく、二人は二人のままなわけで。少しずつ少しずつ二人を取り巻く環境が変わりつつあって、次巻以降が期待大です。ただ、文句があるとすれば憎き中沢氏や、我らが尊敬するマスターなどがちっとも出てこなかったことでしょうか(笑) 今回は丈君のお話もありましたが、ぶっちゃけてしまえば本編よりこっちの短編の方がおもしろかったかな。これからは、どうもweb連載という形を取るようなので、これもまた期待大ですね。

【村山由佳】天使の卵


「天使の卵」
著者:村山由佳
イラスト:
集英社文庫
bk1

 村山由佳さんの「小説すばる」新人賞受賞作品だそうだ。中身はといえば、ばりばりの恋愛小説。でも、その辺にあるような、思わず赤面してしまうような内容でなく、出てくる人物は皆、何かしらの傷を負っていて、その傷故につらい恋を経験するような感じ。重いんですよ、話。でも、読んだ後は、何ともいえない気持ちにさせられてしまうんです。決して気分は悪くありません。のど(心)に突っかかった小骨がとれるような。そんなすっきりした気分になります。何でかよくわかんないんですけど。「天使の卵」は少なくともハッピーエンドではないし、またはっきりと結末が描かれているわけでもない。だけど、なんかこれで十分な感じする。共感しすぎるとちょっと痛いけど、十代、二十代の人間に支持されるのも当然と思えた。なにかしら感じるところがあるだろうから。「恋愛小説」って肩書きがついてしまうと、少し敬遠してしまうけど、ちらっと手に取ってみると少し心に余裕ができる……かもしれない。

2002年01月27日

【滝本竜彦】ネガティブハッピー・チェーンソーエッジ


「ネガティブハッピー・チェーンソーエッジ」
著者:滝本竜彦
イラスト:
角川書店
bk1

 第五回角川学園小説大賞特別賞受賞作。なぜかこれだけ大きめサイズの発行。
 ちょっとしたスリルを味わった夜の雪の帰り道で、退屈な高校生活を送っていた主人公君は、チェーンソー男と戦闘を繰り広げる美少女さんを目撃する。その場の勢いで関わりを持ってしまったが故に、退屈な生活にちょっとしたアクセントが加わるようになって……。
 と、まあ、日常と非日常の狭間を舞台にした青春モノとでも言いましょうか。なんだけど、ビミョーなんだよな、びみょー。普段、ワタシは本を読み始めるとほとんど読み終わるまでは一気に読んでしまうことが大半なのに、これは間に別の本が入り込み、読み終わるのに4日ほどかかった。これが示すにこの一冊は、浸れない。ワタシにとっては致命的。
 ネタとしては「深層心理の作り出した”イドの怪物”」扱いだろうと思うし、そのアタリはうまく処理していると思うけど、主人公とその文体がワタシにはいただけない。文中の高校生活に共感がもてると非常にハマる話になるのかも。うーん、いまひとつ。

2002年01月26日

【時雨沢恵一】キノの旅 -the Beautiful World-


「キノの旅 -the Beautiful World-」
著者:時雨沢恵一
イラスト:黒星紅白
電撃文庫
bk1

 キノとしゃべるバイクのエルメスが世界各地を旅する過程での出来事をまとめた短編形式のシリーズ。「シンフォニアグリーン」と全く同系統のものになる。ただこちらの印象は全体的にちょっと暗めかな。陰と陽、そんな感じ。色々な国が出てくるのだけど、どこか一つがぬきんでていて、それが原因でひどい国になってしまっている。そのなかで、キノが淡々と人に向けて銃を撃ったりすることで、微妙な緊張感があったり。局所的に読めばほのぼのしたところもあるのに、なぜか読後感は「重いモノ」を読んだ感じ。個人的にはシンフォニアグリーンのような明るい色合いの話が好きなので、こっちはどうも……。

【砦 葉月】シンフォニアグリーン


「シンフォニアグリーン」
著者:砦 葉月
イラスト:秋津たいら
電撃文庫
bk1

 植物の探索・採取・運搬などを生業とするプラントハンター・リィンが遭遇する出来事をまとめた短編形式の一冊。この人は電撃大賞・敗者復活組。
 秋津さんの挿絵のせいか、全体的な色合いが淡色という印象を受ける。全体の流れも淡々と進む。これは主人公であるところのリィンの性分によるところが大きいだろうけど。生態系がちょっと変わっていて、生活のかなりの部分に植物が密接に関わっている世界観は何ともおもしろいけど、そのユニークな植物たちをイメージできるかどうかで楽しみ方が変わる、かな? 癖がなく読みやすい、言い換えれば盛り上がりに欠ける、という感じか。清涼飲料水みたいな一冊です。

2002年01月22日

【咲田哲宏】竜が飛ばない日曜日


「竜が飛ばない日曜日」
著者:咲田哲宏
イラスト:DOW
角川スニーカー
bk1

 第四回角川学園小説大賞優秀賞受賞作品。
 方々での高評価がずっと頭の片隅にあって、先日書店に立ち寄った時にふと思い出して手に取ってみました。中身に関しては、ずーっと学校舞台のほのぼのストーリーとなぜか勝手に思いこんでいたせいで、全く逆のハードな出だしに非常にびっくりしましたよ。ちゃんと裏表紙読んでおくんだった。
 ギミックはちょっと多め。でもその多いギミックをちゃんと裁き切れているかな。小ネタ・小道具の使い方はよかったかも。最後の方の理由付けにはちょっと厳しい点もないことはないけど。中心二人の友人関係が強固に見えて微妙で、そこいらへんでまんまとミスディレクションされまくっているワタシ…。一つ気になるのは、最後落ち着いた時のカップリングか……。ひとり、背景が大きそうなのに触れられていないのがいるのが残念。この人の視点使って、短編でも作れそうかな。重い出だしの割には、「友情」に救われて気持ちのいい一冊になっているかも。

2002年01月12日

【甲田学人】Missing3 首くくりの物語


「Missing3 首くくりの物語」
著者:甲田学人
イラスト:翠川しん
電撃文庫
bk1

 これまた結構短いスパンでの新刊。なんだけど、今回前後編の前編。怖がらせるだけ怖がらせておいて、次に持ち越しです。
 文章がかなり読みやすくなってきている感じ。だけど、話半分のせいか、少し今回内容薄いかな。決着が付く次でどこまで盛り上げるのか、エサはもうだいたい撒かれているみたいなので、それをどうまとめていくのか、楽しみに待ちましょう。

【佐藤ケイ】天国に涙はいらない5 逝き女五枚羽子板


「天国に涙はいらない5 逝き女五枚羽子板」
著者:佐藤ケイ
イラスト:さがのあおい
電撃文庫
bk1

 相も変わらずのハイペース刊行。なんだけど、今ひとつ盛り上がりに欠けるんだよなー。マンネリ化してきたというか。大きな一本道が背景に見えないせいで、一話完結短編集を読んでいるような感じ。しかも、いい加減萌えネタがうっとおしいかも。斬新な切り口のネタをいつまでも引きずっているのは、やはり危険と言うことなんだろうか。次、どうするかなー。

【茅田砂胡】レディー・ガンナーの大追跡(上)


「レディー・ガンナーの大追跡(上)」
著者:茅田砂胡
イラスト:草河遊也
角川スニーカー
bk1

 続刊が望まれて登場の「レディ・ガンナー」シリーズ二巻目。どうやら長い話らしく今回には(上)の文字が。そのせいだかなんだか、前半半分くらいは、この世界における社会通念の説明に費やされただけで、非常に退屈だったり。このシリーズ、9割方はキャサリンお嬢様のパワーでもっているので、崩壊寸前というか、本人が出てきた時にはどんなにほっとしたことか。
 今回はお供に「蛇」のヘンリー氏を連れての冒険旅行のようです。次(下なのか中なのかはわかりませんが)から本格的に動き始めるキャサリンお嬢様。そのパワーを楽しみにしましょう。

【三枝零一】ウィザーズブレイン2 楽園の子供たち


「ウィザーズブレイン2 楽園の子供たち」
著者:三枝零一
イラスト:純 圭一
電撃文庫
bk1

 第7回ゲーム小説大賞銀賞受賞作の2作目。同期の中では一番遅かった続刊だったりする。
 情報を「魔法」として使うというちょっと変わった世界観の未来世界のお話。今回のネタもモルモット系かな? 「魔法」がらみの設定を忘れてしまっているせいでちょっと最初にとまどったけど、乗り始めてしまえばそんなに気にならないかな。ただ気になったのは、出てくるキャラクターたちかな。名前、性格、趣味などなど、所々にとあるコミックを彷彿とさせる部分が多い。前作にも一部そういう記述が見られたけど、こっちはそんなに気にならなかったんだけど、今回はちょっと露骨すぎて、ね。意図してやっているのか、はたまたたまたまなのか。あとがきを読む限り、ちょっとした意図もあるのかもしれないけど、たぶんそんなのに頼らなくてもおもしろく書けそうな感じなだけに、もったいない。
 泣き所もしっかりあるし、終わり方も綺麗だから、今後も期待はもてるかな。ただ、ともするとヒロインの背景がいつも同じパターンになる危険性も高いかも。

【中村恵里加】ダブルブリッド7


「ダブルブリッド7」
著者:中村恵里加
イラスト:たけひと
電撃文庫
bk1

 もう7冊目まで来てしまいましたか。相変わらずのスプラッタぶりであり、安心して読めるシリーズです。今回の主役はくまさん。言葉少ない分、行動が所々ほほえましかったかな。そろそろ物語が収束に向かいかけている雰囲気だけど、最近触れられていない、かなり大きいであろう伏線が処理されていないので、実はまだまだ続くのかも。結構、コンスタントに新刊が出てくるので、多少長引いても問題ないかな。体壊さない程度にがんばっていただきたいものです。

【橋本 紡】リバーズ・エンド


「リバーズ・エンド」
著者:橋本 紡
イラスト:高野春彦
電撃文庫
bk1

 ある日突然届いた携帯メール。「あなたの街に海はありますか?」 これをきっかけにメールのやりとりを始める中学2年生の主人公。交流が活発になった頃、メール交換相手は偶然にも主人公の学校に転校してきて……。
 ある意味これまた王道なボーイミーツガールものですな。そのへんでは「最終兵器彼女」臭がするというのですが、ワタシはこのマンガを読んでいないので何とも言えないです。前半と後半の雰囲気ががらっと変わります。というか、変わり方があんまりな気がします。主人公とヒロイン以外の扱いがあまりにぞんざいと言う感じ。かなり壮大な背景をにおわせていますが、あまりに言葉少なでまだまだ状況把握もできず、これもやっぱりぞんざいかな。続き物ということですが、次の巻次第で評価が分かれるところかも。

【秋山 完】吹け、南の風1-星戦の熾天使


「吹け、南の風1-星戦の熾天使」
著者:秋山 完
イラスト:小菅久美
朝日ソノラマ
bk1

 待望の「南の風」であります。「ペリペティア」ででてきたフレンが主役と聞いていたのですが、お話が長くなって分冊されるにいたって、一巻目の主役は謎の美少女・ジルーネお嬢様のようで。
 これから始まる「無邪気な戦争」のまさにプロローグ。だからまあ、全体的に盛り上がりには欠けるものの、今まで出てきた人たちがちょこちょこと再登場しているので、そういう点ではたのしめるかな。今回のジルーネお嬢様はかわいさ爆発かもしれません。いままで妖艶さや不気味さなんかが多く醸し出されていたので、ちょっとイメージチェンジ(笑) アキカン世界における、大きな歴史事件であるところの「無邪気な戦争」がこれからどのように展開していくのか、楽しみです。発刊ペースは気になりますが……。

2001年12月09日

【志村一矢】月と貴女に花束を5 聖夜狂瀾


「月と貴女に花束を5 聖夜狂瀾」
著者:志村一矢
イラスト:椎名 優
電撃文庫
bk1

 某所で様々に話題になっている問題作(?)の5巻目(笑) 実に一年ぶりの新刊。当初の予定ではこれが最終巻のはずが一冊のびて全6巻に変更になったとか。今回の主役は中心のカップルではなく、兄様がらみでした。
 このシリーズ、出てくる男性陣がみな同じ境遇という、ある意味わかりやすい状況において繰り広げられる往年の少年マンガのような強さのインフレの激しい作品になっています。昔の少年マンガのノリで読むと十分に楽しめるでしょう。斜めから見てしまったら、終わりです。
 今回は、全編通してずっと戦闘続きなので息つく暇もないはずですが、ちょうど中間地点で天然なヒロイン様が一発はずしてくれていますので、そこで一息つけるでしょう。とにもかくにも無難なシリーズです。次の最終巻でどういうオチに持っていくのか、見物でしょう。

2001年12月01日

【茅田砂胡】スカーレット・ウィザード外伝 天使の降りた夜


「スカーレット・ウィザード外伝 天使の降りた夜」
著者:茅田砂胡
イラスト:忍 青龍
Cノベルスファンタジア
bk1

 怪獣大決戦(笑)その後。
 あとがきにあるように、「エピローグ&プロローグ」です。話のもっていきかたには賛否両論かなりあるようです。ワタシは個人的にこういう展開は好きなのでいいですが。デル戦の最後3冊がダメな人には、これもダメなようですね。外伝だからいいでしょう、と思うのですが。「本編の後日談が読みたい!」という人なら素直に楽しめると思います。

【一色銀河】若草野球部狂想曲2 クイーン・オブ・クイーンズ


「若草野球部狂想曲2 クイーン・オブ・クイーンズ」
著者:一色銀河
イラスト:美鈴 秋
電撃文庫
bk1

 今回のネタは「幼なじみ」と「ID野球」。細かい話が続くと言えばそうかもしれない。幼なじみがでてくると、たいてい荒れる恋愛沙汰に関しては、あまり盛り上がりを見せないのが残念。あくまでもメインは野球と言うことかな。前回の野球論にさらに磨きをかけた感じ。理論でできる魔球を使っている分、その理論解説が少し冗長になっているのが難点。兎に角今回は「野球小説」でした。

【神坂 一】クロスカディア1 月メグル地ノ来訪者タチ


「クロスカディア1 月メグル地ノ来訪者タチ」
著者:神坂 一
イラスト:谷口ヨシタカ
富士見ファンタジア文庫
bk1

 「あの神坂氏の新シリーズ、富士見で登場!」という感じでしょうか(笑) 主人公であるところの男の子のところに、突然転がり込んだのは記憶のない女の子、という「いわゆる萌え路線(自称)」なシチュエーションです。……が、失敗してます。神坂氏には萌え路線は難しいようです。
 全体としての世界観はスレイヤーズに近いようです。新理論の魔術も例のごとく登場し、その辺の設定も「らしく」できているのはさすがでしょうか。今回は一巻ということで、たぶんにキャラ・世界観紹介で終わってしまって、話がちっとも見えてきませんが、そこいらへんはこれからでしょう。敢行ペースの速い人ですから、すぐに次が出る、でしょう。
 それにしても、ヒロインの女の子。どうしてもイメージがリナ・インバースに脳内変換されてしまうのは仕様がないんでしょうかね?

【長谷敏司】戦略拠点32098楽園


「戦略拠点32098楽園」
著者:長谷敏司
イラスト:CHOCO
角川スニーカー文庫
bk1

 第6回スニーカー大賞金賞受賞作。今後に期待できる新人かもしれない。
 SFと銘打っているモノの、出てくるモノがSFチックなだけで、全部がSFしているわけでもなく。設定云々なんかは考えずに、とにかくイメージを大切に読みたい一冊。頭に情景が浮かべば、3倍以上は楽しめるものだと思います。雰囲気は秋山完氏に似ているかも。胸にくるものがある、そーゆー作品です。うまく伝えられませんが、兎に角読んでください。

【一色銀河】若草野球部狂想曲3 スプリング・ステップ


「若草野球部狂想曲3 スプリング・ステップ」
著者:一色銀河
イラスト:美鈴 秋
電撃文庫
bk1

 「野球小説」最終巻。野球と女の子が絡むと必ず出てくる「性別の壁」がネタ、かなー? やっぱり本編半分以上は野球。それ以外に絡ませるモノは、恋愛関連といきそうなモノなのに、なぜかやっぱり盛り上がらず、結局そのあたりの結論はちっともです。中心の「怪物」君が野球バカであることが大きな原因と思われます。これに恋愛要素を求める方が間違っているのかもしれない(笑)
 綺麗な終わり方をしているのだけど、結構な人数が出てきた割に、取り扱いのぞんざいな人間が多すぎるので、今度出るという外伝での活躍を期待したいところ。男性陣の影が薄くて、かわいそうすぎるから。

【一色銀河】若草野球部狂想曲 サブマリンガール


「若草野球部狂想曲 サブマリンガール」
著者:一色銀河
イラスト:美鈴 秋
電撃文庫
bk1

 ライトノベルでは珍しいかもしれない野球モノ。いろんな意味で濃い作品かも。話自体は、廃部寸前の野球部が一人の「高校野球の怪物」によって救われるという、ありがちなシチュエーションではある。だけど、その野球部が男女混成という特殊なものであることが、この話のミソ、かな。中心にその「怪物」だけを置かずに、下手をすればヒロインでしかない女の子をもう一つの中心に置いたのがいいのかも。途中のネタも、結構笑える。野球マンガをよく読む人なら、中に出てくるパロディギャグも結構おもしろい。ただし、野球を見ない人には全然わからないネタではある。マニア受けといえばそうかも。はまれば十分楽しめる、そんな感じです。

【山下 卓】BLOOD LINK 赤い誓約


「BLOOD LINK 赤い誓約」
著者:山下 卓
イラスト:HACCAN
ファミ通文庫
bk1

 好評らしいシリーズの二冊目。なんだけど、表題に番号も何も振っていないので、間違って二巻目から手に取る危険が大きいという、ちょっと問題ありなシリーズ。この辺はつぎから改善してもらいたいところですが。
 前作は、ワタシにはちょっと痛すぎてきつかったのですが、なぜそう感じたのか、今回主人公であるところのカズシ君の推論を聞くに至って何となく納得。前作の被害者があまりに「綺麗」(←外でなく内面)すぎたと言うことが大きいかな。
 シリーズ全体のイメージが「灰色の肌寒い晩秋」みたいな感じを受けるので、兎に角トーンは暗い。今回はカズシ君の葛藤がメインで、前みたいにスプラッタではないです。でも、最後の展開はやっぱり痛いです。願わくば、幸せな結末であることを。

2001年11月21日

【渡瀬草一郎】パラサイトムーン3 百年画廊


「パラサイトムーン3 百年画廊」
著者:渡瀬草一郎
イラスト:はぎやまさかげ
電撃文庫
bk1

 「クトゥルー」をネタにした現代伝奇モノ、になるのかなー? かなり独自色は入っています。
 今回の話は、前巻の裏で動いていた出来事で、中心は一巻の二人。とは言っても一人は最初だけですが。全体的にキャラクターが安定してきたのか、浸って読めました。前回ちょっかいを出してきた「エスハ」が今後どう絡んでくるのか、そこいらあたりが注目か。ただ、今回のオチがちょっと安易すぎる気がしたのはワタシだけかな。この点の収束をどうやるのか、ここも楽しみ。
 難点だった挿絵ですが、本文中の状況説明的な挿絵がなくなり、章扉絵だけになったのがかなり好印象。これだったらあまり気にならないし、うまい使い方ではあると思われます。女の子、みんな同じ顔に見える時ありますけどね。
 次はタイムリー(?)な陰陽師ネタの続刊だそうです。

【秋山瑞人】イリヤの空、UFOの夏 その2


「イリヤの空、UFOの夏 その2」
著者:秋山瑞人
イラスト:駒都えーじ
電撃文庫
bk1

 秋山氏初の二ヶ月連続刊行が無事成されたイリヤの二冊目。その1と同様、hp誌上連載分に加筆修正を加えたもの+短編「死体を洗え」という構成。今回はその1よりも加筆修正部分も多め。その分削られたものもあるけど。余裕のある人はhpも買って読んでみるといいかも(と、宣伝してみる)。
 「正しい原付~」はなんと言っても、浅羽妹・夕子とハイスペック水前寺とのやりとりがなんとも。いいコンビですな、この二人。「しあわせでしたーーーーーーーー」が好きです。
 「十八時四十八分~」は一部で物議を醸した、偉く綺麗らしい浅羽母。これに尽きるかと。浅羽ファミリーはなかなかに魅力的です。肝心の浅羽君は今ひとつパッとしませんが。
 「死体~」に関しては、コメントしづらい。というかよくわからなかったです。
 この「その2」でかなりの人が動き、秋山氏特有の、わざと説明しない状況や単語群が増えてきたので、裏を読もうとするといくらでも妄想がかき立てられるという、そんな感じ。しかし、そんな裏を読まなくても、秋山節であるところの「文章マジック」をとくに「十八時~」では楽しめるのでこれだけでも十分では。
 何とはなしにバッドエンドが予測される「イリヤの空」、夏はまだまだ続くようなので続きに期待しましょう。
 「根性ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
  「根性ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
   「根性ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 (笑)

2001年11月19日

【茅田砂胡】レディーガンナーの冒険


「レディーガンナーの冒険」
著者:茅田砂胡
イラスト:草河遊也
角川スニーカー文庫
bk1

 世界観はふつうのファンタジーなのだけど、どうも生態系が入り組んでいるご様子。亜人種がしこたま出てきます。その辺の社会問題を絡めつつ、結構濃いキャラクターたちが暴れておりました。キャラクターの端々に少女様向け表現が見受けられるのが少しつらいところですが、なかなかに魅力的な連中という印象。ただ、ドラゴンくんの登場のさせ方は、ちょっと安易な気も……。しかし、話全体の勢いが良いので、一気に読めてしまいました。主人公のキャサリン嬢はこれからもいろいろとやってくれそうな感じなので、是非是非続編を望みます。

【岩本隆雄】イーシャの船


「イーシャの船」
著者:岩本隆雄
イラスト:草薙琢仁
朝日ソノラマ文庫
bk1

 「イーシャの舟」は「星虫」、「鵺姫真話」の流れをくむ一冊。これで復刻も一段落。この時間軸でのはなしも一通り終了といった感じでしょうか。「星虫」のきっかけとなる宇宙船にまつわるお話。「嫌われ者」の本心というやつが、最後にどかんとぶちかまします。思わぬ人が思わぬ形で出てきていたようなので、あとがきにあるようにもう一度一通り読み直すことにします。新たな発見が、きっとあることでしょう。この一連の三冊は、本当に中高生あたりに一番読んでほしいものだと思います。出てくる人たちみんなが、やっぱり輝いていますね。生き生きしているというか。こんな生き方してみたいです。個人の希望としては、同じ時間軸での話を次も期待しています。また寝太郎にならないことを切に願います。

【秋山瑞人】E・Gコンバット


「E・Gコンバット」
著者:秋山瑞人
イラスト:☆よしみる
電撃文庫
bk1

 ルノア・キササゲ。21歳。北米総司令部最年少大尉。生成晶撃破数歴代7位。月より舞い降りしワルキューレ。反応速度の女神。男性ファン多数。女性ファンも多数……。そんな“英雄”にやっかんだ先輩が裏を画策して、彼女は月に戻されることになった。与えられた任務はなんと自分が卒業した訓練校の教官。そして初めての“教官任務”に緊張する彼女を月面で待っていたのは、訓練校始まって以来の落ちこぼれといわれる5人組だった……。
 いまいち押しの作家、秋山瑞人氏のデビュー作。新人とは思えないパワーで押し切られる文章は、常習性のある薬物のごとし。AIやロボットなど、無生物を書かせたら世界一。絵だけを見ると女の子が売りのありがちなモノに見えますが、その実体たるやかなりハード。「現実」を知るルノアが、何も知らない訓練生にどう接していくのか、その葛藤が見物。最後のアクションもなかなかの緊張感。とにかく魅せてくれる一冊。ただ、ミリタリー関係に拒否反応を起こす人にはちょっと厳しいかも。

【茅田砂胡】デルフィニア戦記1 放浪の戦士


「デルフィニア戦記1 放浪の戦士」
著者:茅田砂胡
イラスト:沖麻実也
中央公論社
bk1

 高校の頃からだから、実は始まった頃からなのか……、そのころから気にはなっていたモノの、表紙の絵柄から対象がワタシとは異なる事を感じ、手をつけずにいたのだけど、書評サイトでの評価数とそのべた褒めな様子から、思わず古本屋を巡って、一巻目を調達。とりあえず、読んでみて、モノの見事にはまってしまった。その後、続刊を仕入れるべく、古本屋を徘徊したが、発見できず、断腸の思いで新品を購入することに。新書版だから高いのにもかかわらず、全18巻。結局一週間で全巻購入、読破してしまいました。まったく、懐の寒いこと寒いこと。というわけで、以下感想。

 このシリーズのなによりの魅力は、主人公およびヒロイン(っちうのか?)、そしてそれを取り巻く人々のやりとりでしょう。ぽんぽんと繰り出されるそのせりふの群からは、どんなにつらい場面でも思わず笑いがこぼれ、そのキャラクターが妙に身近に感じられます。実際にいたら、迷惑千万な連中ですが、人間的な魅力は非常に大きいです。きっと、ふつうに考えればネタ的に大河ロマンとかいわれるような話なのですが、誰もがどたばたコメディーと評することでしょう。なかでも、物語の中心におかれる各独身男性陣の嫁取り物語は、抱腹絶倒ですね。笑いの連続。いろんな個性のキャラクターがでてくるから、きっと一人はお気に入りができるであろう、貴重な小説かもしれません。人気がでるのも頷けます。話としては、生まれに難ありな王様が、何とか王位についてそのあと近隣の二大国と一進一退の合戦をくりかえし……、みたいなシリアスな話なのに、全体を通してみてもそんな雰囲気はほんの少しで、基本的には皮肉の応酬、どつきあい、そんなかんじ。懐に余裕があったら、手に取ってみるとよいでしょう。お気に入りなキャラクター、一人あげるのは、ワタシには無理ですね。みんなお気に入りですよ。

【茅田砂胡】桐原家の人々4 特殊恋愛理論


「桐原家の人々4 特殊恋愛理論」
著者:茅田砂胡
イラスト:成瀬かおり
中央公論新社C NOVELS
bk1

 恋愛ものと言うよりも、ドタバタファミリードラマな感じの「桐原家~」最終巻。角川ルビーの時には出なかった曰く付き。ネタは、零君が桐原家にやってきた頃の一連の混乱劇。前回ちょっとしか出なかった城段君も今度はばっちり。「特殊恋愛理論」なんて副題がある割に、恋愛沙汰は味付け程度しか出てこない。そのかわり、少しスプラッタな描写が多いかも。読後の感想は「女は強し」の一言に集約されるでしょう。まあ、この人の作品はみんな女の人が強いんですけど。
 零君が掘り下げられたのは、期待通りにおもしろかったんですけど、不満点も2点ほど。まず何より挿絵がひどかったこと。発売日が延びたことを考えると、おそらく茅田氏の責任と思われますが。けっこう挿絵気に入ってるシリーズなので、ちょっとこれはいただけず。もう一つは、エピローグであるところの新婚生活が薄かったこと。ここで半分くらいはほしかったです。
 モノとしてはこれで終わりなんでしょうけど、すこーし不完全燃焼かな?

【川上 稔】機甲都市 伯林2 パンツァーポリス1939


「機甲都市 伯林2 パンツァーポリス1939」
著者:川上 稔
イラスト:さとやす
電撃文庫
bk1

 期待の川上さんの新刊。なんですけど、最近都市シリーズ読みにくいです。ワタシには。ただワタシが馬鹿なだけかもしれませんが、伏線の数が多すぎて頭で処理し切れません。第二期伯林上中下の中巻といった位置づけのようですけど、人は増えるは、伏線は増えるは、疲れる一方です。次も伯林らしいのでこれでやっとすべてに決着がつくといいんですけど。なんか、もうちょっと素直に気楽に楽しめる話がいいです。

2001年10月30日

【岩本隆雄】ミドリノツキ(下)


「ミドリノツキ(下)」
著者:岩本隆雄
イラスト:小菅久美
朝日ソノラマ
bk1

 「十年寝太郎」が初めてやったらしい連作の最終巻。
 今回の主役もまたしてもピュンくんか。こいつはいい味出してました。最後もしっかりさらっていったし。あと、挿絵氏の小菅氏のサイトにある「丸ピュン」は必見です!
 下巻としては、ちょっと走りすぎか、詰め込みすぎといったところか。主人公であるところの尚顕くんの周辺でおそらく4つ(3つかな?)の立場が入り乱れていて、序盤と終盤が少し混乱してしまった。もう少しゆっくりじっくり掘り下げて語ってほしかったかな? とはいうものの、安心して読める、昨今少なくなったまっとうなジュブナイルなので、是非星虫三連作と併せて読んでもらいたいかな。

【小川一水】追伸・こちら特別配達課


「追伸・こちら特別配達課」
著者:小川一水
イラスト:こいでたく
朝日ソノラマ
bk1

 性格なのか、何なのか、題材を妙にマニアックに選択する小川氏の自分的ファーストコンタクトだった「こちら郵政省特配課」の続編であり完結編。
 計らず今の首相さんの持論が郵政民営化であるという現状において、こーゆーものが出るというのもなんだけど、妙に濃いキャラクターとその情熱には魅せられるものがあるわけで。ただ、今回は脇役ががんばりすぎて、メインの二人が少し影薄目かなーという印象を受けたり。いや、実際には相変わらずトバしているのだけど、それがかすむくらいにもっと掘り下げてほしい人たちが今回多数出てくるし。何でカーバトルなのかという疑問はあれど、あのあたりの人たちは一度限りではもったいないくらいの人たち。別の話に出てくることを期待したい。
 何でも合理化をすればよいという今の風潮に対して、ドアツードアで顔の見える仕事でしか得られないものなんかを熱く語る、社会派なのかコメディなのか、ただ楽しませてくれるだけでなく、それなりに考えさせてくれるシリーズでした。

2001年10月06日

【甲田学人】Missing 神隠しの物語


「Missing 神隠しの物語」
著者:甲田学人
イラスト:翠川しん
電撃文庫
bk1

 電撃ゲーム小説大賞最終選考からのデビュー組。「E・G」の秋山さんといっしょ。中身はオカルト色のかなり強いファンタジー。なのだけど、ワタシにはファンタジー色の強いミステリーに思えた。それほどミステリーを読んでいるわけでもないから、違うかもしれないけど、話の展開の仕方が何となくそういう印象。まず答えとしての事実があって、それに対して考察を加えて、解答にたどり着く過程を見せるというか。本文にもある「科学的考察」を実践している感じ。
 ネタは「神隠し」。どこの神話・民話にも見られる逸話に対して一つの見解が与えられているのかも。とにかく本文の情報量は多い。ただ、全体的に心理面、しかも少し黒い方がメインにでてくるからその辺少し重いかも。メインで動くのは5人の学生と問題の少女。それぞれに、積み上げた物が見え隠れするので存在感もちゃんとある。欲を言えばもうすこし問題の少女を掘り下げてほしい感じもするけど、そうすると雰囲気壊れちゃうかな。
 ちょっと哲学的な部分も多いけど、結構刺激になる一冊。魔王陛下のお言葉は参考になります。「思考停止に安住するな」とはちょっと耳が痛いですけどね。

【川上 稔】機甲都市 伯林5 パンツァーポリス1943 Erste-Ende


「機甲都市 伯林5 パンツァーポリス1943 Erste-Ende」
著者:川上 稔
イラスト:さとやす
電撃文庫
bk1

 第二期都市シリーズ最初のシリーズ、ついに完結編。
 だれだ、都市シリーズ入門用とかいったのは! 川上節全開で最初っから最後までトバされて、ワタシにはついていけませんでした。出てくる人が多すぎです。ルビ振り文字が読みにくいです。中途半端に伏線読もうとするからよけい混乱します。結局、最終的に何がどうなって、どう落ちついたのか、ちっともわかりません。読後の余韻なんてあったもんでもないし。というわけで、一回読んだくらいぢゃ、ちっともです。がんばって5冊再読します、そのうちに……。
 結論。「初めての都市シリーズ」には向きません。えぇ、けっして。もちろん、そーでしょうとも。秋山氏とはまた違って、固有の世界を展開してますが、さすがに今回はワタシの手には余るものでした。もう少し修行してきます……。

【甲田学人】Missing2 呪いの物語


「Missing2 呪いの物語」
著者:甲田学人
イラスト:翠川しん
電撃文庫
bk1

 電撃で賞を取ったばかりの新人さん、早速の二作目。「都市伝説」を中心に据えたオカルトファンタジー(らしい)。今回のネタは「憑き物」と「ソロモンの鍵(魔術)」。
 前回が「魔王様」こと空目くんが主役だったけど、今回の主役はミステリアスな亜紀さん。魅力的なキャラが多いのだけど、今回はちょっと無力カップルがあまりにも非力。前回はいいクッションになってくれたけど、今回は少し力不足だった模様。ここら辺は惜しいけど、他は大丈夫。ネタの濃さはぴかいちだし、それなりに引きも強い。ただ、ちょっと著者の主張らしいところが多くなってるのがちょっと気になるかな。電撃には珍しいテイストなので、今後もこの濃さをキープしつつがんばってほしいところ。しかし、この挿絵はなんとかならんものか。さすがにすこし不釣り合いかな。もちっと重めな絵にしてほしいものですわ。

2001年10月05日

【秋山瑞人】イリヤの空、UFOの夏 その1


「イリヤの空、UFOの夏 その1」
著者:秋山瑞人
イラスト:駒都えーじ
電撃文庫
bk1

 電撃hpに連載されていたものが文庫化。プラス短編一本。秋山氏にしては珍しく現代物。だけど、舞台設定は平行世界(パラレルワールド)? 時期が時期だけに、結構作中の状況がしゃれにならないような気もしますが。話の中身は、本人も言ってるように「UFO○波」が全てでしょう。アレのキャラを秋山テイストにするとこんな感じ、かと。
 全体的に周りは常に全力疾走。特に約一名(笑) 肝心の中心人物はかたや天然、かたやスイッチ式。読んでてほのぼのすることも多いけど、決着の付け方がどうなるのか、すごく楽しみ。秋山氏は泣き所を入れるのがおじょーずなので、そのあたりも注目か。でもなー、「正しい原チャリの盗み方」はまずいと思うんだけど、いいのかな? いや、おもしろいんだけどね。とりあえず、一月あけて出るその2とその後続くであろう続刊が早期に確実に出版され、順調にEGFに移行されることを、切に願うばかりである(笑)

【秋山瑞人】E・Gコンバット2


「E・Gコンバット2」
著者:秋山瑞人
イラスト:☆よしみる
電撃文庫
bk1

 ルノアは吹っ切れ、訓練生もやっと一人で歩けるようになった頃、訓練の関門が二つ。筆記試験と実地演習という名の「実戦」。筆記試験では、どこの学校でも見られるような戦闘があり(笑)、一方で宿敵ラセレーナの悪巧みが引き起こす悲劇の演習。「生命」を天秤にかけざるを得ない指揮官の苦悩が痛々しい。前巻よりもさらにパワーを上げた文章は、後半に行くにつれてヒートアップ。何より今回かっこいいのは双脚砲台GARPくん。最後までかっくいー。漢ですなー。
 ちらりと根底にあるであろう伏線も出てきて、ますますスピードアップしていく2巻目でした。

【秋山瑞人】E・Gコンバット3


「E・Gコンバット3」
著者:秋山瑞人
イラスト:☆よしみる
電撃文庫
bk1

 さてさて、生きるか死ぬかの3巻目です。今回の主役はD+……いやいや、恋する乙女、カデナ・メイプルリーフ伍長でしょう。序盤重く、中盤勢いよく、笑いあり、終盤さらにさらに重く。にくい演出です。
 宿敵からの奇妙な一本のメールから、月と地球の情報格差が激しいことを知るルノア。身の回りの雰囲気から不吉な予感がひしひしと。一念発起して、脱走。なぜか部隊の5人+1人とともに地球へ。そこで見たモノは……。
 最初のおちゃらけた雰囲気はどこへやら。事実に近づくにつれてどんどこ重くなっていきます。「シナリオ13」、「緑に光る月」、「ずたずたの衛星網」。猿どもはどこから来てどこへ行くのか、その答えが次のFinalで。ここまでくると消化不良かも。早く続きを読ませてクレー。

2001年09月09日

【鷹見一幸】時空のクロスロード3 バースディは永遠に


「時空のクロスロード3 バースディは永遠に」
著者:鷹見一幸
イラスト:あんみつ草
電撃文庫
bk1

 電撃hp読者アンケートで好評を博して、文庫になったシリーズの完結編。
 時間軸はいっしょだけど世界情勢が違うという平行世界を舞台にしたお話。そこでは世界中に蔓延した致死率、罹患率の非常に高いウィルスのせいで社会が崩壊。生き残った少数の大人と多くの子供達がいくつかのキャンプで暮らし、無法状態になっている中において、その安定を破壊から得ようとする暴徒たちとの戦闘が繰り返される。そんなところに変なじじいにもらった機械で「平和で安穏」とした世界から飛んでくる主人公達。そこから変わっていく世界の因果律……。
 決して特殊な能力を持った人間ではなく、シリーズを通して食べ物だけで周りを変えてしまうという、単純で根本的ではあるけれども、それだけに効果的な干渉の仕方。真ん中の2巻目はちょっとたるんでしまったけど、今回の3巻目は最後にしっかりと締まっていい感じ。自分たちが今、いかに「危うい平和」を享受しているのか、そしていかに「無力」であるか、少し身につまされるものもあるけれど、前向きな結末であることで気持ちよく読み切ることが出来る。
 しかし、このシリーズを読んでいると無性にお好み焼きやホットケーキ、カレーなんかを食べたくなるのはつらいかなー。それだけ描写に気合いが入っているのだけど。直前に出た「でたまか」のおわりがおわりだったので少し不安だったものの、こちらの方はきれいにまとまって終わってくれたようです。

2001年09月04日

【鷹見一幸】でたまか アウトニア王国奮戦記2 奮闘努力編


「でたまか アウトニア王国奮戦記2 奮闘努力編」
著者:鷹見一幸
イラスト:Chiyoko
角川スニーカー文庫
bk1

 電撃の方で「時空のクロスロード」を書いていた鷹見一幸氏の、スニーカー文庫での新刊。背景にはいろいろといわくのある作品のようですが、中身は典型的なスペオペ。

 金も地位もない貧乏貴族だけど、軍の士官学校では成績抜群。だから坊ちゃん貴族に恨まれて、配属先は辺境地区へ島流し。そこで勃発する戦闘をなんとかかんとかしてのりきっていく、とまあそんな話。設定その他はほかのスペオペと同じ。その点で半使い古された雰囲気ではあるものの、それが気にならないくらいに魅力的なキャラクター多数。今回はまさに「いい性格」な人たちの大活躍。人から地位や名誉や財産なんて、世間一般の評価を取り除いた先に自分に残るものは何なのか、その価値とはいかほどか、なんてちょっと身につまされるテーマもありそうだけど、渦中であるところの貧乏貴族はその点微笑ましい。「開いてしまった戦端をどう収束させるのか、そして渦巻く人間模様はいかに?」ってな引き際でやっぱり次巻が気になる終わり方。売れなければ次はないらしいけど、2冊目が出たからきっと大丈夫だと思いたい。

2001年08月28日

【岩本隆雄】ミドリノツキ(上)


「ミドリノツキ(上)」
著者:岩本隆雄
イラスト:小菅久実
朝日ソノラマ文庫
bk1

 「星虫」の岩本さん、待望の新刊。舞台は日本だけど、「星虫」世界のお話ではなく、別のお話。
 主人公は男子高校生。学校の自習時間、居眠りをしていて遭遇した不思議な夢と、それから起きる世界規模での騒動。先史文明の遺産なんて物が現れて、世界中大パニック。ただの高校生が、気がついたら、なんだか騒動の一端に片足をつっこんで……ってなところで、上巻終了。はっきり言って、これからどうなるのか、気になってしょうがないです。出てくるキャラクター一人一人の背景がたっぷりありそうで、上下巻ではもったいない気もする。岩本さんらしい地球規模でのスケールの大きさや、ちょっとした問題提起チックな部分もあり、考えさせられる。上巻で張り巡らせた伏線とギミックをどう決着づけるのか、期待大。それにしても、岩本さんの書く高校生って言うのは、なんかこう、いいですな。青春してるけど、そんなに青臭くもなく。好感が持てます。

【岩本隆雄】ミドリノツキ(中)


「ミドリノツキ(中)」
著者:岩本隆雄
イラスト:小菅久美
朝日ソノラマ
bk1

 今度は十年も待たされなかったようで(笑) しかし、上下巻のはずが、一冊増えての中巻です。
 上巻でちりばめられた伏線にそれなりの回答を与えつつ、大量のギミックを違和感なく消化していくのはさすがな感じ。読み始めると止まらないのが難点かな。もちっとゆっくり楽しみたい、というのは贅沢か。
 今回の主役はなんと言ってもタワーバード君でしょう。いいキャラしてます。こいつの立場はワタシにはまだよくわかりきっていませんけど、主人公とはいい(漫才?)コンビになりそうです。
 次で「選ばれた人」と主人公とがどう絡んでいくのか、どう決着するのか、非常に楽しみです。順調にいけば、10月には下巻が読めるらしいので、それに期待して待ちましょう。

【吉田 直】トリニティブラッド Reborn on the Mars2 熱砂の天使


「トリニティブラッド Reborn on the Mars2 熱砂の天使」
著者:吉田 直
イラスト:THORES柴本
角川スニーカー
bk1

 「ノイエバロックオペラ」なんつー、訳のわからないジャンル付けされた、「大災厄」後のどこぞの世界の吸血鬼対人類のお話、長編版2作目。某所では、某マンガのパクリ論争も勃発していたりする作品(笑)
 長編前作でゲストヒロインだと思っていたシスター・エステルさんが今回からどうやらレギュラーヒロインとして登場。世界に対する解答とともに、今後は恋愛沙汰も少しは絡んでくるご様子。個人的には、赤毛は駄目ですが、強気な人は好みです。文章なんかには特にこれといった特徴もなく、ふつうに読めます。登場人物の肩書きは少し読むのつらいですけど。この作品の場合、挿絵の占める割合がかなり大きいと思われ、これがなければ魅力半減かも。ちょろりちょろりと伏線も明らかになりつつあるので、これから少し重く運ぶんでしょう。対する「RAM」(短編集)の方は、結構軽いノリなので、ワタシはこっちの方が好きなんですけどね。

【岩本隆雄】星虫


「星虫」
著者:岩本隆雄
イラスト:鈴木雅久
朝日ソノラマ文庫
bk1

 ある日、宇宙から降り注ぎ、人の額に寄生した不思議な生き物「星虫」。人間に対して「有害」なのか「無害」なのか、そのとらえ方の微妙な差違と、それによって生じる周辺との摩擦。「ふつう」であるということの意味は? 中高生の時に誰もが描く将来への「夢」。それを取り巻く現実。そんな対比が妙に生々しく、また気持ちよく書かれている話です。また、今の地球環境を取り巻く様々な状況に対する、一つの考え方も書かれています。
 将来に悩んでいる人、現状が行き詰まっている人、そんな人たちに一番よく効く特効薬だと思います。
 これを読んだ後には、必ず何かが残るはず、そんな小説です。中高生の人たちにはとくに読んでほしい一冊ですね。

【小野不由美】華胥の幽夢 十二国記


「華胥の幽夢 十二国記」
著者:小野不由美
イラスト:
講談社文庫
bk1

 十二国記シリーズの最新刊。短編集です。舞台は戴・漣・慶・才・奏・芳の各国。さすがに一気にたくさん出てきて混乱気味。でも、陽子や楽俊、泰麒、利広と結構主要なメンバーが出てきて楽しかったです。特に最初の二人のやりとりが。やっぱりこの二人が一番見ていておもしろいかなー。
 なんとはなしに、世界全体が動き始めて様な印象を受けたんですけど、微妙に時間軸が錯綜しているからひょっとすると勘違いしている部分もあるかも。ちょっと人が一気に増えて混乱気味だし。しかし、気づいたらどっぷりはまったなー。

2001年08月09日

【渡瀬草一郎】パラサイトムーン2 鼠達の狂宴


「パラサイトムーン2 鼠達の狂宴」
著者:渡瀬草一郎
イラスト:はぎやまさかげ
電撃文庫
bk1

 電撃大賞出身で、大賞受賞後の最初のシリーズ、2冊目。ネタ元は「クトゥルー神話」とか、そのあたりだと思うけど、人外の能力を持つ人たちが、その能力の元となる「神様」を狩ったりなんだりしたりする過程で生じる各種騒動。そんな話(どんなや?)。
 一巻目、挿絵といい、中身といい、非常に萌え要素を全面に出し、話の根本になる「迷宮神群」とかのあつかいもなんだかなーで、今ひとつだったのが、二巻目でかなり改善。前回、勢いに乗れなかったぶん、今回は結構全体的にかっちりしていて読みやすかった。最後のもっていきかたも満足。ネタから考えても、そんなに萌え要素を出す必要もない、というかむしろ出してほしくない。今回、かなりの量の神様の名前が出てきてしまって、能力その他が混乱気味なので、ちょっと整理がほしいところかも。
 安定した今回から、さらにどう発展するのか、すでに三冊目も校正段階のようなので、期待大。一巻目のカップルがしっかり出てくるそうです。

2001年08月08日

【大倉らいた】坂物語 ~キミを見つけた冬の朝


「坂物語 ~キミを見つけた冬の朝」
著者:大倉らいた
イラスト:甲斐智久
角川スニーカー
bk1

 センチの二人で書いている「純愛・学園ロマンティックシリーズ」の三冊目。
 毎回、いくつかの地方が舞台となる短編集なので、地方在住の人にはけっこううれしいかも。今回のは、金沢、高知、鳥取、尾道の四カ所。数が多い分、少し中身は薄目で、ちょっとネタにも苦しくなってきているのか、今ひとつ。次で終わりらしく、そろそろまとめの気配もあるのでそのせいかも。センチの時みたいに「切なさ炸裂」(笑)みたいにはならないから、今ひとつ盛り上がりに欠ける。
 まあ、スニーカーらしいっちゃらしいシリーズです。

2001年07月26日

【乙一】夏と花火と私の死体


「夏と花火と私の死体」
著者:乙一
イラスト:
集英社文庫
bk1

 方々で絶賛されている乙一氏のデビュー作を文庫にしたもの。表題作の「夏と花火と私の死体」と「優子」の2本の短編が収録されている。基調はホラー色。
 「夏と花火と私の死体」は、9才の夏、友達であるところの弥生に殺されて「死体になってしまった『五月』」の視点から、死体処理に追われる弥生とその兄、健の様子を描いた話。弥生の小さな嫉妬と、その後の恐怖はよくわかる。だけど、健の冷静さだけはすこし首を傾げてしまう。ちょっとサイコが入っているような描き方だけど、不気味過ぎかな。そこがホラーらしくもあるのだけど。「死体の視点」という変わった人称で進む話は確かにおもしろい。そこで描かれる状況も、空気が感じられるようで心地いい。最近、絵が見えない小説が多いので、こういう物を読めるとうれしくなる。不満なところは、前述の健の冷静さだけど、それも、最後を引き出す伏線としておかれているのかと考えると、必然なのかな? ここはちょっとわからない。もしそうなら少し言葉が足りないか。
 「優子」は作家・政義と、政義の世話をする、友人だった人形師の娘・清音、それから書斎で寝たきりでほとんど姿を見ることのない政義の妻・優子の話。小説という媒体をうまく使った話なんだと思う。文章になっているのは情報の一部で、それも嘘はついていないかもしれないけど、真実でもないかもしれない。そういうことをうまく使っているのだと思う。ちょっと複雑すぎて、結局誰が正しいのかがワタシにはよくわからなかったけど。乙一氏の話は、こういうのが良くできている。ミステリーなんかで言う「ミスディレクション」というやつかな? 最後の最後で、「ちぃ、だまされた!」ということがたまにある。巧妙すぎて気づかないから。これはそんなにホラー色は強くない。
 小野不由美氏の解説を読んで、こういう文章に破綻がなくきれいに流れる様な物を「構成力・観察力に優れる」というのだと実感した。ホラーが大丈夫なら読んで見るべし。

【乙一】天帝妖狐


「天帝妖狐」
著者:乙一
イラスト:
集英社文庫
bk1

 JUMMP J-Booksで出ていたものを文庫におろしたものの二冊目。「A MASKED BALL」と、表題作の「天帝妖狐」の2本収録。今回は死体が出てこない分ホラー色も弱め(笑)
 「A MASKED BALL」は、学校で何気なく見るトイレの落書き、そこから始まる奇妙なコミュニケーションが引き起こすちょっとした事件の話。これまたミスディレクションがうまいこと。人物の配置が絶妙で、結構だまされました。落書きコミュニケーションズの5人のうち、「V3」氏が最初誰だかわからなかった。読み直して、納得。最後の終わり方が、何とも心地よく、決して笑い話ではないのだけど、ちょっと口元に笑みが浮かぶ。そんなエンディング。
 「天帝妖狐」は、ホラーよりはオカルトかな? ネタは誰もが一度はやってみた事があるであろう「こっくりさん」。物語は二つの視点で、片方は手紙の体裁をとっている。出だしが終わりの時からさかのぼるので、そこもまた雰囲気を醸し出す。「何が起きたのか、わくわく」、とそんな感じ。これはミステリーの手法かな。特に謎掛けも何もなく、メインは中心の二人の心情の動きといったところか。これまた最後がなんとも、いい。ちょっとセンチになってしまう、そのもっていきかたがニクイですな(笑) 結局最後まで「こっくりさん」の正体に明確な答えが与えられないんですけど、ちょっと気になりますよねぇ。答え、あったのかな、ひょっとして……。
 「夏と花火と私の死体」に比べれば、軽めの話だけど、中身は十分。乙一氏の長編も読んでみたいと思うけど、短編だからこそ、言葉が多くなくていいのかも。

2001年07月15日

【山下 卓】BLOOD LINK 獣と神と人


「BLOOD LINK 獣と神と人」
著者:山下 卓
イラスト:HACCAN
ファミ通文庫
bk1

パパ顔こと「DADDY FACE」と主人公近辺の構成が似ているというので読んでみた。似ていたのは主人公とヒロインの年齢差が大きいだけだった。高校生と小学生のカップリングは問題ありだと思う。中身は猟奇物かなー? おかしな虫に寄生された人間が人を殺す。それを「駆除」するための怪しい組織がある。身近な人間が「寄生」されたことで主人公達が巻き込まれる。そういう流れ。
 なぜかはわからないけど、ワタシにはあわなかったです。文章が読みにくいとか、キャラがいけ好かないとかそういうことはなかったけど、生理的に駄目。たぶん話の内容がスプラッタだからでしょう。主人公に思いを寄せる同級生がイタイ、つらい。それも原因かも。

2001年07月09日

【佐藤ケイ】天国に涙はいらない3 あだ討ちヶ原の鬼女


「天国に涙はいらない3 あだ討ちヶ原の鬼女」
著者:佐藤ケイ
イラスト:さがの あおい
電撃文庫
bk1

 オカルトネタが基本のはずの、ただの「萌え」小説の三冊目。
 今回のネタは「鬼」。だいぶ話の展開にもこなれてきて、おもしろく読めるのだけど、「萌え織天使」アブデルがやりすぎ。いい感じで話が流れているのに、ちょこっと入る「萌えネタ」が気分をさましてしまう。ここまでねらわれすぎてしまうと逆にえげつないというか。もうちょっとふつうに話を展開してもらえれば、素直に楽しめるのに。ウケの取り方がいわゆる「内輪ネタ」に近いせいかも。背景にある情報量とかは豊富だから、難点はここだけかなー。きわどいシリーズなんだよなー。

2001年06月23日

【榊 一郎】赦されざる者達の騒動歌


「赦されざる者達の騒動歌」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 うん、やっとキャラクターが走り始めたかな、といった感じの二巻目。なんだか大きめな伏線も見え隠れし始め、いい感じで話が勢いづいてきました。それにしても、これにでてくる魔法の名前にはやられましたー。ほとんどが北欧神話由来なんだものなー。ともあれ、おもしろくなってきたので次も続けていってみよー、ということで速攻三巻目も購入。こうやってドつぼにはまっていくのね……。

【佐藤 ケイ】天国に涙はいらない


「天国に涙はいらない」
著者:佐藤 ケイ
イラスト:さがの あおい
電撃文庫
bk1

 今年の電撃ゲーム小説大賞金賞受賞作。個人的にいつもツボにはまるのは大賞受賞作より金賞受賞作の方が多いので、今回もとりあえず金賞受賞作から。

 ロリコン天使とか、志保ちゃんバリのゴシップ報道少女とか、そーゆー濃いキャラクターたちと随所にちりばめられた軽いノリのおかげで、結構重い話もすっと読めておもしろい話ではあるのだけど、最後だけはいただけないかなー。というか、ページ数不足なのかな? 一番盛り上げたいところ(盛り上がってほしいところ)がすごく淡泊で拍子抜け。最後のマニアックバカギャグはいらないからせっかくの見せ場をもちっと劇的にほしかったかな、個人的に。続編を出すとあとがきにあったのでこれからどう展開していくのか、それは楽しみ。オカルト系の知識も深いのでその辺でも楽しみ。次巻以降に期待、でしょうか。

【榊 一郎】捨て猫王女の前奏曲


「捨て猫王女の前奏曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 久々の富士見ファンタジアです。表紙の絵にやられました(笑) 「スクラップド・プリンセス」(通称:棄てプリ)なるシリーズもの。ファンタジアらしい、実に軽めなどたばた劇。題名の通り、まだプロローグ色が強いから、あまり話は進みません。これから、本筋開始、というところでしょうか。双子の兄姉と血はつながっていないけどいっしょに育った主人公が実は……。ありがちな設定だけど、キャラクターたちはいい味だしてるので、期待はできるかな? ただ、雰囲気が初期の「魔術師オーフェン」に似ている気がする。今後の展開で、評価がどっちに転ぶか、かもしれない。いずれにしても、これからという感じの一巻目でした。

【榊 一郎】半熟騎士の行進曲


「半熟騎士の行進曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 イー感じに盛り上がってきております。「廃棄王女」ことパシフィカの強さと優しさが、心にしみます。こういうのにワタシ弱いんですな。ちょこっと背景が表に出始めてきていてこれからの動向に期待、大です。

【三枝零一】ウィザーズブレイン


「ウィザーズブレイン」
著者:三枝零一
イラスト:純 珪一
電撃文庫
bk1

 最新の電撃ゲーム小説大賞、銀賞受賞作。なぜかこの大賞、一番上の賞の作品よりも二番目以降の方がよく売れるという妙なもの。方々で話題になっているので読んでみました。

 確かに、金賞受賞作「天国に涙はいらない」より、こちらの方がおもしろいです。きれいに完結している割に、世界観は広く展開の仕方として川上さんの「都市シリーズ」に近いものがあるのかもしれません。情報で物理法則を支配するという観点もおもしろいかな。物理関係の話が色々と出てくるので、その辺がだめな人にはつらいかもしれませんが。個人的には、主人公錬君を巡って繰り広げられた各国軍部と兄姉の戦いあたりのお話も読みたいです。「天国」より、続編が楽しみです。しかし、この「天国」の方はすでに続刊発行予定があがっていたりもするんですけどね。

 今回のゲーム小説大賞、大賞受賞作が該当なしのせいもあり、ちょっと不作かも。前回の「ダブルブリッド」とか「リングテイル」とか結構おもしろかったんですけどね。

【榊 一郎】異端者達に捧ぐ鎮魂歌


「異端者達に捧ぐ鎮魂歌」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

いいですねー、腐れ神官。こういうキャラクター大好きです。なんか影もってて、強くて。古いところですけど、「卵王子カイルロッドの受難」(冴木忍)のイルダーナフみたい(←ふるいなー)。まだ爆裂王女も着実に強くなっているようで(精神的に)、ほほえましくもたくましく、物語は適度にシリアス、適度におちゃらけ、イー感じで進んでいきます。この調子で行ってほしいものですなー。「オーフェン」は最近シリアスすぎてちょいとおもしろくなくなってしまったので、二の轍は踏まないことを願います。

【榊 一郎】つかの間の歌劇曲


「つかの間の歌劇曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 今回は外伝的なお話。どたばたのタイトル通りの歌劇? いい感じでキャラクターの立ち具合がパワーアップ。脇役の人たちもいい味だしてます。「文化祭」のノリというのもまた、つぼをついててグッド(笑) 最近SFづいていたので、こういう素直なやつを読むと気楽でいいですな。

【榊 一郎】捨て犬少女の夜想曲


「捨て犬少女の夜想曲」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 というわけで、「棄てプリ」も5巻目突入。今回のテーマは「揺れる乙女心」か?(笑) 血のつながらない兄妹愛のお約束色が、巻を追うごとに濃くなっていきます。つぼを押さえた話の運びですねー(笑) 大分背景もはっきりしだしましたが、まだ結末を予測できるほどでもなく、話の半分くらいかな、との印象。「続刊以降期待!」という部分が着々と増えていって、おもしろいです。久方ぶりにいいものに逢えたようですね。

【榊 一郎】通りすがりの子守歌


「通りすがりの子守歌」
著者:榊 一郎
イラスト:安曇 雪伸
富士見ファンタジア文庫
bk1

 「棄てプリ」こと「スクラップドプリンセス」シリーズ最新刊。今回は番外編のようなもんでしょうか? ほのぼのハートフルファンタジーって銘打ってるだけに、全体的にのんびりした雰囲気なのは読んでいてほっとします。ラクウェルがその大きな原因であることは間違いないと思いますが。番外編であるところの今回の見所は、誰がなんと言おうと「すーぴぃくん」でしょう。ちっちゃいすーぴぃが「んごんご」言いながら大量におそってくるところはビジュアルでほしかったと思うのはワタシだけではないはずです。ぬいぐるみ、ほしいかもなぁ、すーぴぃくん。今後ちょっと気になるのは、冷徹な駒だったクリス君が最近ちょっと軽くなってきたこと。今後彼がどう変わっていくのか、この辺も注目かも。ちょっと視点が違うけど(笑)

【川上 稔】機甲都市 伯林4 パンツァーポリス1943


「機甲都市 伯林4 パンツァーポリス1943」
著者:川上 稔
イラスト:さとやす
電撃文庫
bk1

やっと終盤伯林4冊目。やっと見えてきた感じですが、ここまで来てどうも話の流れが巴里くさい。今まで出てきたものども総動員の様相ですが、どう収束するのか。次がやっとこラストのようなので、それを見てってかんじでしょうか。それにしても、こういろいろと出てくると、「都市世界」の年表とギミック説明集とかがほしいですな。ガイドブック、出してくんないかなー。そろそろ頭の中のイメージだけではおっつかなくなってきました(泣) 根底のネタが第二次大戦だけに、このへんの実史を知らないせいもあるのかな、理解不足は。いずれにしても次です、次。
 どーでもいいけど、表紙、やばめですよ、川上さん(笑)

【伊達 将範】リムーブカース(上・下)


「リムーブカース(上・下)」
著者:伊達 将範
イラスト:しろー大野
電撃文庫
bk1

 「DADDY FACE」ではまってしまった伊達さんの既刊。転生ネタです。

 話の中心には一組の男女。互いがずいぶん前の前世に因縁を持つ仲なれど、男はその記憶を持つが、女はまるで持たない、とある種典型な話かも。それに他の人々が関わってくるのですけど、上下二冊とはいえページ数が足りなかった。もったいないくらいに。魅力的なキャラクターばかりなのに、視点がまるで部外者のように無知な前述の女の方のために、あまり掘り下げてもらえなかった人たちの多いこと。「DADDY FACE」並の厚さで上下巻あれば、もっとおもしろかったのにという印象。対局な立場であるところの敵さんももちっと掘り下げてほしかったけど、なにより「娘」であるところの水蓮をもっと出してほしかった。著者本人のサイトに、これ関連でショートストーリーが何編かあるけど、これが文庫に入っていれば、と思う。でも、最後の方はちょっと「BUSTERD!」入ってたかな? メタトロンとか、その辺で。これはちょっといただけないかなー、とも思う。惜しいっ、て感じ。

【川上 稔】機甲都市 伯林 パンツァーポリス1937


「機甲都市 伯林 パンツァーポリス1937」
著者:川上 稔
イラスト:さとやす
電撃文庫
bk1

 著者本人曰く、「都市シリーズ二期目開始。初心者にもわかる都市シリーズ」とのことだったんですけど、ワタシにはわかりにくかったです。「格闘ゲームやシューティングゲームののり」ということらしいのですけど、勢いだけで、どうも状況が今ひとつ飲み込めず、またイメージもほとんどわかなかったのです。勢いに任せて、しっかりと文章が追えてなかったのかもしれません。理解するには、二度三度読み返さないといけないみたいです。最初から最後まで、まさに「疾風のごとく」過ぎ去ってしまって、後にはなにも残らずな感じ。次も伯林らしいので、それがでる頃にもう一度読み返すことにしましょう。

【川上 稔】機甲都市 伯林3 パンツァーポリス1942


「機甲都市 伯林3 パンツァーポリス1942」
著者:川上 稔
イラスト:さとやす
電撃文庫
bk1

 伯林3冊目。前回から3年後。だけど、話はまだまだです。まだまだ人が増えていきます。おかげで何がなにやら。もはや話の中心は「へいぜる・べるがーの進展」のみと(笑) とはいえ、そろそろ話も収束に向かいつつあり、キーパーソンもはっきりしてきたので、今後を読めば少しはわかるんでしょう。川上さんの魅力なんですが、作中のギミックの多様さにそろそろついて行ききれなくなってきましたわ(^^;

【秋山 完】ファイヤーストーム -火の星の花嫁-


「ファイヤーストーム -火の星の花嫁-」
著者:秋山 完
イラスト:槻城 ゆう子
朝日ソノラマ文庫
bk1

 火星に人が住むようになったというようなシチュエーションのSFか、な? 特に感動するとか、そういうことはなく、すらりと読めました。この人の書く本は、一本の大きな話を後ろに抱えているようなので、それがはっきりしてくると、また違った発見があるのかもしれません。ひょっとすると深い意味のあるお話なのかもしれないけど、そこまでの深読みはワタシにはできません。火星植民にかかる、科学的な説明はこれまたおもしろいものがあるかもしれません。最近こんなのばかりだなー(笑)

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